「経営の神様」と呼ばれた事業家がまた一人逝った。京セラ創業者の稲盛和夫氏が8月24日、老衰のため鬼籍に入った。「神様」と呼ばれただけあって、稲盛氏は「元祖・経営の神様」であるパナソニックホールディングス創業者の松下幸之助氏と同じように、どこか神がかり的な雰囲気をまとっていた。

 実際、生前は2人とも精神世界に傾倒していた。稲盛氏が僧籍を持つほど仏教に入れ込む一方、幸之助氏はどの宗教宗派にも帰依せず、独自の信仰を実践した。そして両者ともに、人知を超えた「宇宙の意志」を信じていた。

 宗教学博士であり、幸之助氏が創設したPHP研究所PHP理念経営研究センターで首席研究員を務める川上恒雄氏に、日本の産業史に揺るぎない足跡を残した2人の「神様」の精神世界を案内してもらった。

パナソニックホールディングス創業者の松下幸之助氏(左)と京セラ創業者の稲盛和夫氏(右)は1979年にPHP研究所の雑誌「Voice」の企画で対談した。稲盛氏は創業間もない60年代初頭に幸之助氏の講演を聴き、「強く願えば実現する」という精神論に深い感銘を受けていた(写真:PHP研究所)
パナソニックホールディングス創業者の松下幸之助氏(左)と京セラ創業者の稲盛和夫氏(右)は1979年にPHP研究所の雑誌「Voice」の企画で対談した。稲盛氏は創業間もない60年代初頭に幸之助氏の講演を聴き、「強く願えば実現する」という精神論に深い感銘を受けていた(写真:PHP研究所)

稲盛氏と幸之助氏との宗教観にはどのような特徴があったのか、まずはそこから教えてください。

PHP理念経営研究センターの川上恒雄首席研究員(以下、川上氏):稲盛氏は幸之助が育った時代よりも、物質的に豊かな時代の経営者です。そのためどちらかといえば物質よりも、心の豊かさを重視していました。この俗世では、会社員や経営者ならば職場こそが心を磨く場だと信じていました。俗世で働くことを重視する背景には、禅の教えがあると思われます。

どういうことでしょう。

 禅僧には掃除や農作業、料理などの「作務(さむ)」と呼ばれる日々の労務があり、座禅を組むことと同じように、修行の一環だとみなされています。稲盛氏は自らの経営を含め、会社で働くことも作務だと解釈したのでしょう。職場での労働を通じて魂を磨き、その磨かれた魂があの世に行く。魂が輪廻(りんね)する死生観を持っていました。

幸之助氏はどうですか?

川上氏: 幸之助は魂が輪廻するとは考えていなかったようです。得度して禅僧にもなった稲盛氏とは違い、幸之助はどの宗教宗派にも属さず、独自に「宇宙根源の力」、あるいは単に「根源」と呼んだ万物の創造主の存在を信じていました。人間の霊魂は死ぬと根源に帰っていき、溶けてしまうというのです。

 根源には宇宙に存在するすべてのものを生成し、たえず発展させる「生成発展」の「意志」、別の言い方をすれば繁栄・平和・幸福の実現への「意志」があるのだと考えました。そして、この世においては人間をその「意志」の担い手とみなすことで、人間を「万物の王者」とすら表現しました。人間は万物の王者として、生成発展を実現する責任と使命があるというのです。この考え方に従えば、会社の事業こそ、その大きな一翼を担っていると見ることができます。

松下幸之助氏は京都市内の別邸「真々庵」に建立した「根源社(こんげんのやしろ)」で、日々祈りをささげていた(写真:PHP研究所)
松下幸之助氏は京都市内の別邸「真々庵」に建立した「根源社(こんげんのやしろ)」で、日々祈りをささげていた(写真:PHP研究所)

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1284文字 / 全文2365文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「Views」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。