ツァン・メンさん(20)が精神的に追い込まれたのは昨年12月だった。気がつくと北京の大学寮の階段で泣きじゃくっていた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として繰り返されるロックダウンによる絶望感が原因だった。

写真は遼寧省瀋陽市にある、無料のカウンセリングホットラインに応対するオペレーター。2020年2月撮影(2022年 ロイター/cnsphoto)
写真は遼寧省瀋陽市にある、無料のカウンセリングホットラインに応対するオペレーター。2020年2月撮影(2022年 ロイター/cnsphoto)

 ロックダウンに入ると、ツァンさんはほとんど部屋から出られず、友人に会うこともできなかった。食堂を利用する時間、シャワーを浴びる時間にも厳しい制約がある。人と直接会って交流することが大好きだというツァンさんにとって、そうした制約は「自分を支えてきたセーフティネットが外され、私という存在すべてが崩れていくように感じた」という。

 その12月にツァンさんは強い不安・うつ状態と診断された。

 ファーストネームは伏せてほしいというヤオさん(20)は、高校のときに最初の危機を迎えた。寄宿寮で生活していたヤオさんは、ロックダウン政策がこれほど厳しい理由を理解できなかった。ある日、学校のトイレにこもって、激しく泣き続けざるをえなかったという。「まるで自分の体の中が泣いているようだった」

 北京市内の大学に在学中の2021年初頭、ヤオさんは自殺を図った。高校以来のうつ状態を解消できなかったほか、父親の怒りを買うことを恐れ、希望していた進路を選ばなかったことによる挫折感もあった。

 中国は新型コロナの感染拡大をすべて封じ込めるという決意のもと、世界でも有数の厳格かつ頻繁なロックダウンを実施している。それが命を救うことにつながり、コロナ禍による死者が現時点で約5200人と低水準に留まっている、というのが当局の主張だ。

 中国政府がこの姿勢を変える兆候は見られないが、医療専門家らは、こうした政策がメンタルヘルスに与える影響を警戒しており、ツァンさんやヤオさんの経験が示すように、すでに犠牲も生まれつつある。

 英医療専門誌ランセットの6月号に掲載された論説は、「メンタルヘルスの不調が今後何年にもわたって中国の文化・経済に悪影響を与える兆候が出ており、中国のロックダウンは非常に大きな人的コストを生み出している」と主張している。

 専門家らがメンタルヘルスへの悪影響を特に懸念しているのは、ティーンエイジャーや若年成人層だ。若さと、自分の生活を自由に決められないために傷つきやすい上に、上の世代に比べてはるかに強い学業面でのストレスや経済的なプレッシャーのもとで競争していかなければならない。

 影響を受ける若者の数は非常に多くなるかもしれない。中国教育省による2020年の試算では、新型コロナ対策として長期にわたる行動制限を受けた国内の子ども、若者の数は約2億2000万人とされていた。これに関して、ロイターでは同省に対し最新の試算値とコメントを要請したが、回答は得られなかった。

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