前回は新型コロナウイルスの流行が収まらずに東京五輪・パラリンピックが中止となった場合の「大会前」と「大会中」の経済損失を検証してみた。今回は「大会後」だ。

 国際オリンピック委員会(IOC)や東京都をはじめとする五輪の関係者は大会後に対日投資や訪日客が増えるなどとバラ色の未来を喧伝(けんでん)してきた。では開催が中止になれば大会後に得られたはずの経済効果はどの程度吹き飛ぶのか。バラ色の未来の虚実を検証することで、損失額を探る。

外出時にマスクを付けるのが当たり前となった。果たして東京五輪は開かれるのか(東京・新宿、写真:共同通信)
外出時にマスクを付けるのが当たり前となった。果たして東京五輪は開かれるのか(東京・新宿、写真:共同通信)

 東京五輪が延期になるとは誰も夢想だにしていなかった2019年夏──。開催を1年後に控えて東京都庁で記者会見に臨んだ小池百合子都知事は「総力を挙げて20年の大会を成功に導き、それを価値あるレガシー(遺産)として、活力あふれる東京を実現してまいりたい」と意気込んでいた。

 小池氏だけではない。IOCのバッハ会長から、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長まで、五輪関係者が大会後も続く長期的な効用を強調するために、念仏のように「レガシー」と唱えていた。スポーツ経済学者で、米スミス大学のアンドルー・ジンバリスト教授は、「IOCを筆頭に五輪関係者がこぞってレガシーという言葉を使うようになったのは2000年のシドニー大会からだ」と解説する。

 開催費は大会ごとに膨れ上がる傾向にあり、レガシーという概念を持ち出さねば開催都市・国の納税者を納得させるのが難しくなってきたことが背景にあるという。ジンバリスト氏は「五輪に多額の税金を投じることを正当化するのがレガシーの役割であり、その概念は曖昧で幅広い」と指摘する。

 五輪の開催に批判的な納税者をなだめるために何でもかんでも「五輪のおかげで実現する」ということにして、レガシーという言葉で包み込めばいいわけだ。裏を返せば五輪が中止になったところで、そもそも五輪関係者が描いてみせた「バラ色の未来」は幻想であるため、経済損失は小さいということになる。

 21年に延期された東京五輪の総費用は3兆円とされる。これに対して東京都オリンピック・パラリンピック準備局が弾き出した五輪開催による経済効果は約32兆円と、総費用の約10倍に上る。32兆円のうちレガシー効果は27兆円で、全体の84%を占める。レガシー効果を含めれば、開催に3兆円を投じても十分にリターンが得られることになる。これをうのみにするのであれば、納税者も納得だ。

対日投資やスポーツ人口は本当に増える?

 ただオリパラ準備局が主張するレガシー効果の詳細を眺めると、五輪とどう関係するのか一見しただけでは分からない項目が山盛りである。

 シドニー大会以降、レガシー効果として毎度のごとく登場してきたおなじみの項目に「投資の拡大」がある。東京五輪も例外ではない。オリパラ準備局は、外国企業の東京進出などよって対日投資が増え、国際ビジネス拠点が形成されると予想している。

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