2021年夏に1年間延期された東京五輪・パラリンピックが中止となる可能性がくすぶっている。国際オリンピック委員会(IOC)は新型コロナウイルスのワクチン開発と量産化の進捗を勘案し、早ければ20年10月中に、遅くとも21年3月までに開催可否の判断を下す見通しだ。企業の業績を左右しかねないだけに、中止という悪夢が現実になったときのマクロ経済への影響を、今から見極めておく必要があるだろう。

 エコノミストの間では「日本経済が被る損失は数兆円に及ぶ」という見方が主流だ。一方で「マクロ経済に与える影響はゼロ」という意見も真剣に語られている。極端に分かれる2つの試算。果たしてどちらが正しいのか。

東京五輪のメイン会場となる国立競技場は完成したが……(写真:共同通信)
東京五輪のメイン会場となる国立競技場は完成したが……(写真:共同通信)

 あなたは21年夏、東京五輪の開催中に五輪のロゴが入った扇子を応援用に買うはずだったとする。仮に開催が中止になったら、浮いたお金で別の商品を買うだろうか。この疑問にどう答えるかで、中止に伴う経済損失は大きく変わってくる──。

 大会の中止に伴う経済損失は「大会前」「大会中」「大会後」の3つのフェーズに分けることができる。応援するはずだった試合がなくなり、扇子の購入を取りやめたとしたら、それは大会中に発生した損失となる。

 五輪を開くことで得られたはずの経済効果の毀損分が、中止に伴う経済損失だ。大会中の経済効果は、扇子をはじめとする関連グッズの購入のほか、国内外からの観戦客や選手・スタッフの宿泊・飲食、会場の警備、スポンサーによる広告宣伝などの直接的な需要増と、原材料の購入や関連企業の従業員による消費など間接的な波及効果の合計となる。

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局が試算した経済効果のうち、大会中を中心に発生するものを足し合わせれば3兆4624億円に上る。仮に大会が中止になればそれらの多くが毀損するはずだ。経済効果に関する第一人者で、関西大学の宮本勝浩名誉教授はそのすべてが失われると主張している。

 ところが第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミストは、「五輪の中止に伴うマクロ経済への影響はゼロ」と言い切る。一体どういうことなのか。

「損失ゼロ説」を唱える第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミスト
「損失ゼロ説」を唱える第一生命経済研究所の藤代宏一・主任エコノミスト

 藤代氏は「五輪を開くことによるマイナスの要因を考慮する必要がある」と解説する。例えば五輪を開けば試合の観戦客が増える代わりに、五輪目的以外の観光客が減ることが過去の実績から分かっている。あるいは五輪関連の消費が増える代わりに、五輪とは無関係の消費が減る。

 この考え方に基づけば、五輪の中止に伴って五輪とは関係のなかった観光需要や消費が復活することになる。つまり五輪ロゴ入りの扇子を買わないことで浮くお金で、別の商品を購入することにより、マクロ経済への影響はほぼプラスマイナスゼロになる。

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