敬天愛人が救った

1983年、合併を発表する京セラの稲盛和夫社長(左)とヤシカの遠藤良三社長(写真:共同通信)
1983年、合併を発表する京セラの稲盛和夫社長(左)とヤシカの遠藤良三社長(写真:共同通信)

 「悶々(もんもん)として悩む私を、会社の応接間にかけてあった『敬天愛人』の書が静かに見下ろしていた」と、稲盛氏は振り返る。「人を愛するということは、生半可な覚悟ではできないんだよ」。西郷隆盛が、そう語りかけているような気がしてようやく決心がついた、という。

 「全従業員の物心両面の幸福を追求する」「人類、社会の進歩発展に貢献する」――。京セラの経営理念はこうして固まった。そして敬天愛人は京セラの社是にもなっている。

 無私の覚悟を持って経営者として社員やその家族を率いてきた稲盛氏。技術力を武器に必死に市場を開拓し、会社を大きくしてきた。しかし、稲盛氏は社業に打ち込む傍らで、日本を代表する名経営者、松下幸之助や本田宗一郎の本を熱心に読むことも忘れなかった。経営の「素人」だと自覚しているからこその向学心。中国の古典、孔孟(こうもう)の教えや仏教も学んだ。

 「それらを繰り返し読むうちに、経営者として、また、悩み苦しみながら生きる1人の人間として、日々遭遇する出来事に照らし合わせてみると、人の考え方がしっかりしていなければ何事も立派に成就することはない、これは世の中の絶対的な真理だと確信を深めていった」(日経ビジネス2005年12月5日号の「敬天愛人」より抜粋)という。

 その過程で思い至ったことやその都度、書き連ねていったことを稲盛氏は体系化していく。それは後の「京セラフィロソフィ」や「6つの精進」「経営12カ条」などとして後進の道しるべになっていく。

 稲盛氏が哲学を大事にするのは、「成功することよりも、成功を持続させることの方がはるかに難しい」との考えに至ったこととも関係がある。「敬天愛人(05年10月24日号)」で稲盛氏はこう強調している。

 「リーダーには哲学が欠かせない。成功におごらず、謙虚に、自分を律する克己心を持ち続けられることが人間としての本当の偉さなのです」

 1988年12月19日号の日経ビジネスの記事ではより率直に心の内を明かしている。「放っとけば際限もなく堕落していく弱い自分を知っている。大義名分というか、規範というか、そういったものでせめてもの歯止めにしたい」 

「シャイで泣き虫」の幼少期

 実際、稲盛氏は自らを「シャイで泣き虫」と評する「普通の人」の面も持ち合わせていた。前述の88年12月19日号では稲盛氏の兄で当時、京セラ専務を務めていた稲盛利則氏のこんな話を紹介している。「小学校入学当時は、独りでは学校にもよう行かんという子でした。ノロノロしているので、私が置いて先に行くと、その日はもう学校に行かないということもありました」

 そんな稲盛氏は「大義名分を持つことによって、弱虫だった私は勇気を引き出しているんです」と吐露している。そしてこう続ける。

 「生きるためには、やさしさも要るけれど、残酷な面も要る。もし信念にまで高まった大義名分がなければ、とても生きていけないでしょう。さいなまれてしまってね。例えば『お前は首だ』と言うとしたら、それは相手にとっては大変非情なことです。しかしそれより大切な大義名分が自分にあって信念にまでなっていれば、非情さも勇気を持って乗り越えられるのです」(99年12月19日号)

 困難と苦悩、学びを経て揺るぎないものとなった稲盛氏の信念。それは、日本の経済界に広がっていくこととなる。

(「稲盛和夫氏が説き続けた経営者の使命 『国民のため』を大義に」に続く)

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2/22ウェビナー開催、ウクライナ侵攻から1年、日本経済「窮乏化」を阻止せよ

 2022年2月24日――。ロシアがウクライナに侵攻したこの日、私たちは「歴史の歯車」が逆回転する光景を目にしました。それから約1年、国際政治と世界経済の秩序が音を立てて崩壊しつつあります。  日経ビジネスLIVEは2月22日(水)19時から、「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」と題してウェビナーをライブ配信する予定です。登壇するのは、みずほ証券エクイティ調査部の小林俊介チーフエコノミストです。世界秩序の転換が日本経済、そして企業経営にどんな影響を及ぼすのか。経済分析のプロが展望を語ります。視聴者の皆様からの質問もお受けし、議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。 

■開催日:2023年2月22日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済「窮乏化」を阻止せよ
■講師:小林俊介氏(みずほ証券エクイティ調査部チーフエコノミスト)
■モデレーター:森 永輔(日経ビジネスシニアエディター)
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