「いきなり!ステーキ」のペッパーフードサービスが経営の正念場を迎えている。同店の大量閉鎖に加え、8月末には「ペッパーランチ」をファンドに売却する。急拡大から凋落したのはなぜか。その背景には、経営の根幹に関わる4つの問題があった。

 「あんたにはだまされた」

 昨年秋、東京都内のホテルではペッパーフードサービスの創業50周年パーティー「感謝の集い」が開かれていた。参加者はフランチャイズ(FC)加盟店や取引先の関係者など700人以上。創業者の一瀬邦夫社長は後日、社内報にこのときの様子をこうつづっている。

 「最高級の料理とホスピタリティ溢れるおもてなしにご招待の皆様は、とてもご満足の様子でした」。だが実際には、一瀬社長はFC加盟店関係者から激しい批判の声を浴びていた。

 その2年前。同社が2017年に東証1部上場を果たした際に都内で開かれた記念パーティーは、一瀬社長をもてはやす人々であふれていた。会場に続く廊下は同氏に贈られた花で彩られ、「まるで大スターのような扱いを受けていた」と出席者の1人は振り返る。

 わずか2年でここまで転落したのはなぜか。「一瀬さんを止められる人がいなかったということだ」。いきなり!ステーキやペッパーランチなどのフランチャイズ(FC)加盟店を運営するヨコハマフーズの青柳紀会長はこう語る。

 青柳氏は新たな業態として、16年にいきなり!ステーキの出店に踏み切った。2000万円前後の月商をたたき出すなど滑り出しは上々。だが、好調は長くは続かなかった。17年ごろからペッパーフードがいきなり!ステーキの急拡大に乗り出したからだ。

 「立地的に成功が難しいと思う出店は避けてほしい」。青柳氏はFC本部であるペッパーフードに対して過剰な出店を抑制するよう訴えた。だが、本部の急拡大路線は止まらなかった。

ペッパーフードサービスは2020年6月末までの半年で100店近くの「いきなり!ステーキ」を閉鎖。7月3日には114の直営店を閉め、200人の希望退職の募集を発表した。
ペッパーフードサービスは2020年6月末までの半年で100店近くの「いきなり!ステーキ」を閉鎖。7月3日には114の直営店を閉め、200人の希望退職の募集を発表した。
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 企業存続の淵に立たされたペッパーフードは7月末、投資ファンドとの事業提携を発表した。今後は外部の力を借りて再建に向かう。「ファンドが来てくれて安心したし、これで再建できる可能性も出てきた」。青柳氏はペッパーフードの再生に期待を寄せる。

 だが、再生するには超えるべき課題も多い。事業の急拡大に無理があったことは間違いない。だが、しかるべき時期に経営の方針や戦略を見直す機会はあったはずだ。同社が窮地に立たされたのは、経営面で4つの問題があったためだ。

問題その1・ガバナンス:「個人経営の上場企業」

 最大の問題は、経営にガバナンスが効いていなかったことだ。ある外食大手企業の幹部はペッパーフードについて「上場企業だが、実態は一瀬氏の個人経営」と語る。

 ガバナンス不在が露呈したのが、19年末に起きたいきなり!ステーキの「貼り紙炎上騒動」だ。

 売り上げ不振を受け、一瀬社長は「社長からのお願いでございます」という言葉から始まる文章を店頭に貼り出した。文章は「高級牛肉を気軽に食べられる食文化を発明した」「店舗の急拡大でどこでもいきなり!ステーキを食べられるようになった」と自社の功績をアピールする一方、「来店が減少しており、このままでは近くの店を閉めることになる」と利用を呼びかけた。

 これに対し、ネット上では「売り上げが悪いことを客のせいにするな」「勘違いが際立っている」「貼り紙はマイナスでしかない」といった批判が殺到した。

 一瀬氏は社内報で「『熱いメッセージ』に対し、数限りない誹謗中傷を受けた。それらを読むことで腹の立つこともある。一部の人が悪評に惑わされる現実があるとすればとても迷惑な事」とコメント。いきなり!ステーキについても「肉好き、ステーキ好きの私が通い詰めるステーキ店が繁盛しないわけはないと確信している」などと強気の姿勢を崩さなかった。

店頭に掲げられた一瀬邦夫社長の文章はネット上で批判を浴びた
店頭に掲げられた一瀬邦夫社長の文章はネット上で批判を浴びた
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 一瀬氏が「貼り紙」で集客を図ろうとしたのは、これが初めてではない。01年にBSE(牛海綿状脳症)問題が起きた際には、同年夏にオープンしたペッパーランチ東銀座店に「助けてください。このままでは本当に困ります。美味しく安心な米国産のお肉です。食べに来てください」と窮状を訴えた。

 いきなり!ステーキの危機に直面して、一瀬氏の脳裏に当時のことがよぎったとしてもおかしくはない。20年1月の社内報では「何とか流れを変えねばとの想いから、お客様に窮状を直接訴えることにした」と記している。

 だが、01年とはSNS(交流サイト)などの環境は大きく異なっている。かねて一瀬社長のワンマンぶりは有名だった。店頭に貼り出された一瀬社長の言葉は、かえって同氏の独断に意見できる幹部がいないペッパーフードの体質を周知させることになった。

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