様々な企業や組織がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるが、明確な成功例は乏しく、何がDXなのかも曖昧な状況が続いている。リクルートで長年、ネットメディア・基幹システムの開発・運用・企画編集に携わり、麗澤大学で統計学・コンピューター科学の講義を担当している筆者は、今までのシステム開発とDXとではプロセスが大きく異なることを実感している。前回の記事では組織の在り方について取り上げた。今回は、どのような人材を集めるべきなのか、またどのようなマネジメントが必要になるのかを考えたい。

(写真:PIXTA)
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 前回の記事では、多くの企業にDX推進組織ができているものの、何をやるのか決まっていないまま組織が先につくられている例もあることを指摘した。そして、いざ組織をつくってしまうと、成果というコミットが求められる。手本のないDXでは、データを使いこなすアイデアを出して検証してみるプロセスが不可欠だが、件数目標や期限を決めると、無難なアイデアばかりになりがちだ。そこで、経営側が覚悟を決め、コミットを定めずに取り組むことの重要性も説明した。

 今回はDXにまつわるもう1つの問題を取り上げたい。それは人材の問題だ。多くの企業や組織がDXを推進する人材の確保に苦労していると聞く。そして、そもそもどのような人材がDXの推進に必要なのか不明確なまま組織をつくってしまうケースが多いようだ。

 筆者が定義するDXは「データとITを使いこなして新しい価値を生む」ことだが、そのためには3種類の専門性を持つ人材が必要だと考えている。ITを使いこなすことができるIT人材、データを使いこなすことができる統計人材、そして、起点となるアイデアを思いつく人材である。

IT人材はユーザー企業にはほとんどいない

 多くのDX推進組織で最初にアサインされるのがIT人材で、その多くは情報システム部からの異動か兼務発令である。しかし、IT人材といっても、システムを外部に発注するユーザー企業と呼ばれる企業群と、ユーザー企業からの発注を受けてシステム開発を行うSIer(エスアイヤー:ITサービス会社)と呼ばれるIT系企業とでは全く違った状況になっている。

 日本におけるIT人材がIT系企業に偏在していることはかねて指摘されており、『IT人材白書2017』(情報処理推進機構)では、IT人材の72%がIT系企業に所属しているとされている。筆者の2018年の論文「発注者と開発者のスキル・意識の違いがシステム開発に及ぼす影響」(経営情報学会)では、より具体的にユーザー企業とSIerのIT人材の違いを比較している。その結果は以下のようなものである。

  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のプロジェクトマネージャ資格を、大手SIer所属のマネジャーは33.3%が保有しているが、ユーザー企業のマネジャーの保有率は11.5%にすぎない。
  • システム開発経験年数は、大手SIer所属のマネジャーの場合、51.9%が25年以上であるのに対して、ユーザー企業のマネジャーは15.2%にすぎない。
  • 理系大学卒比率を見ると、大手SIer所属のマネジャーは42.6%であるのに対して、ユーザー企業のマネジャーは18.9%にすぎない。
  • 大手SIer所属のマネジャーの転職経験率はわずか14.8%にすぎないが、ユーザー企業のマネジャーの転職経験率は半数を超える55.8%と高い。

 この結果をシンプルに解釈すれば、IT人材はIT系企業に偏在しているだけでなく、その人材の属性も大きく違い、SIerとユーザー企業でITスキルと経験に大きな差があるということになる。そして、ユーザー企業にいるIT人材とは、スキルや経験を前提としておらず、たまたま転職したら情報システム部門に配属されるケースも少なくない、という可能性を示唆している。そして、受注する側のIT系企業が、ユーザー企業のIT人材不足を表立って指摘することは稀だ。なぜなら、素人相手だとシステム開発の手間はかかるが、ビジネスとしてはおいしいからである。

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