2025年には65歳以上の高齢者は国内人口の30%を超え、そのうちのほぼ5人に1人が認知症の有症者となると予想されている。高齢化比率はさらに2042年ごろまで上昇が続き、認知症についても糖尿病罹患(りかん)者などの予備軍が発症するとさらに増える。
社会保障の観点からは高齢者はできるだけ就労してもらい、財源を支える側に回ってもらいたい。生活者個人として老後のQOL(生活の質)を考えても社会とのつながりを持ち続け、収入も確保したい。それゆえ、高齢者が働くことは国も個人も歓迎すべきことだとされている。
ところが高齢者のなかで2割を占めると予想されている認知症の有症者の就労については、無視できないボリュームながら、注目されることは少ない。
2015年に厚生労働省が認知症と社会の在り方を考えた「認知症施策推進総合戦略」いわゆる新オレンジプランでも認知症の人の就労支援自体は施策の柱には挙げられていない。
「体験したことを忘れてしまう」「判断力が低下する」という認知症の症状や特徴のせいで、働ける職業やポジションを広く一般論で考えることは難しい。それでも、草の根レベルでは、軽度の認知症の人の働く場をなんとかつくろうとする試みが始まっている。
認知症の人が常時働く沖縄そば食堂
沖縄の方言で「頑張る」を意味する「ちばる」の名を冠する「ちばる食堂」は、名鉄特急で名古屋から30分、愛知県岡崎市の住宅街にある。隣接する豊田市にはトヨタ自動車の中枢機能があり、周辺にもトヨタ関連の事業所が多数あるため、ベッドタウンとして1960年以降、人口は徐々に増え続けている。
2019年4月に開業したちばる食堂では認知症の有症者が4人、常時働いている。料理を作るのはこの店をつくったマスターの市川貴章さんで、それ以外のスタッフは接客などを受け持っている。
メニューはランチタイムは沖縄そばなど主に3種類。夜は市川さんが1人でバーとして営業している。
市川さんは、もともと介護福祉士として近くの介護施設で17年間働いていた。仕事を通じて、認知症の人と一般社会の間にある距離を狭めていくために何ができるかを考え続けていたという。たまたま高校生の頃アルバイトで中華食堂に勤めていたときに調理師免許を取得していたこともあり、「食」を通じた実現方法を模索していた。
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