世の中では、様々な企業や組織がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。しかし、DXの明確な成功例は乏しく、何かDXなのか、という定義も非常に曖昧に思える。筆者は、リクルートでリクナビキャリア(現リクナビネクスト)やISIZE住宅情報(現SUUMO)等の開発・運用、企画編集に携わり、リクルートフォレントインシュア(現オリコフォレントインシュア)では家賃債務保証事業の基幹システムや、業界共通の家賃弁済情報データベースシステムの構築・運用等を主導してきた。現在は、大東建託賃貸未来研究所で家賃推計の研究等を行い、麗澤大学で統計学とコンピューター科学の講義を担当するITストラテジスト・博士(社会工学)でもある。長年、コンピューターとインターネットを活用した事業に関わってきた経験から、これまでと同じ考え方でDXに取り組むのは誤りだと考える。DXで陥りがちな間違いと正しい姿勢について、2回に分けて紹介したい。

1987年に筆者がリクルートに通信事業のエンジニアとして入社してから、コンピューター活用に関する様々なバズワードを聞いてきた。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)、WEB2.0、クラウド、AI(人工知能)を経て、今はDXが大きなキーワードとなっている。DXの定義は曖昧だが、シンプルに言えば「データとITを使いこなして新しい価値を生み出すこと」となるだろう。
長年、コンピューターとインターネットを活用した事業に関わってきた立場から、DXはこれまでのシステム開発やデジタル化とは全く違うものだと感じている。違う点は大きく分けて以下の3つだ。
- 導入の目的が、業務の効率化やコスト削減よりも、売り上げの拡大など競争優位性の確保を目指していること
- 取り組みの内容が、データ活用に主軸を置いていること
- DXの導入に際し、お手本となるようなシステムが存在していないこと
筆者は1998年ごろからリクナビキャリア(現リクナビネクスト)やISIZE住宅情報・ForRent.jp(現SUUMO)、R25式モバイル等の企画・開発・編集・運用を担当したが、データの活用はあまり重視されていなかった。当時のリクルートでは、情報誌という紙メディアのビジネスをどうやってインターネット上でのビジネスに再構築していくかが最優先課題であり、競合他社のサービスをベンチマークしつつ、他社に先駆けた新たなアイデアを組み込んだサービスやシステムを開発していればよかった。
その後、筆者は2006年にリクルートフォレントインシュア(現オリコフォレントインシュア)という家賃債務保証事業の会社を設立して経営に携わり、基幹システムの構築や、業界団体である一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)が運営する家賃弁済情報データベースシステムの構築といったことも主導したが、やはりデータを使いこなすという次元ではなかった。
旧来のシステム開発やIT化・デジタル化といわれるものは、基本的にはお手本となるシステムがあり、それをSIer(エスアイヤー:ITサービス会社)を中心とするベンダーがユーザー企業に売り込む、という形が多く、こうしたシステム開発では、ユーザー企業はあまり細かいことを考えなくてもよかった。システム導入の目的が、売り上げを拡大するための競争優位性の確保ではなく、業務の効率化やコスト削減を目的としていることが多かったからである。
しかし、現在は状況がかなり違う。
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