筆者は大東建託賃貸未来研究所長として不動産関連の調査・研究に携わるだけでなく、麗澤大学客員教授として統計学・コンピュータ科学の講義を担当している。最近、学生から「やりたいことが見つからないんです……」という声をよく聞く。この「やりたいこと」とは、人生の目標、自分が自分であるための指針といったニュアンスのようだ。書籍などを通じて「やりたいことを探せ」という言説が広がり、「やりたいこと」があるのが当たり前、という社会の雰囲気を感じるようになったのが背景にある。では本当に社会人は「やりたいこと」を見つけているのだろうか。筆者が企画・調査・分析している「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」で調査を試みたところ、個票データの分析から、実は「やりたいこと」がある人は少数であることが見えてきた。

最近、若者の間ではSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)、エシカル、格差解消など社会課題解決への関心が高まり、社会起業家に脚光が集まっているようだ。新卒の採用現場では、エントリーした企業でいかに社会課題を解決したいかを熱心に語る学生も増えていると聞く。
やりたいことがあるのはいいことだが、それは当たり前のことなのだろうか。誰もがやりたいことを見つけるべきだ、という認識が広まっていることに、筆者は違和感を覚える。
筆者が所属している大東建託賃貸未来研究所では「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」を調査しているが、ここには不動産関連の設問だけでなく、個人の意識や幸福度に関連する設問も入れている。今回、本稿のために2021年の全国約18万人分の個票データを分析してみたところ、「今現在、人生でやりたいことがある」という設問に「yes」と回答したのは、24.7%にすぎなかった。やはり、やりたいことがある人は少数派なのだ。性別、年齢別に集計しても大きな変化はなく、60歳以上になると多少比率が上昇するが、それでも30%程度にすぎなかった。
やりたいことがなくても幸せになれる
「今現在、人生でやりたいことがある」という設問はやや大げさなので、例えば「毎日が幸せに過ごせればよい」とか「給料の高い仕事に就きたい」といった日常的な望みは除外されている可能性が高い。それでも24.7%というのはかなり低いと感じられる。
では、「やりたいこと」の有無と、幸福度には関連性はあるのだろうか。
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