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「企業重視、学生軽視」がまん延するリクルートキャリア

 もう1つの危機感は、サービス提供者であるリクルートキャリアにある。

 リクナビは、サイトに自社の採用情報を掲載する企業から「掲載料」を得ることで収益を上げる仕組み。ウェブサイトの作り込みの度合いやページ数などによって、掲載料は数十万円から1000万円程度まで変動する。イベントへの参加や、企業から学生への案内メールなどでも別料金を得る仕組みになっている。このモデルは古くから変わっていない。

 2014年には、内定を取った先輩のエントリー数を表示した上で「先輩に追いつけ」などと学生に対して過剰なエントリーをサイトで促す姿勢が「エントリーあおり」として問題化し、2010年代中盤には競合の「マイナビ」と掲載社数や登録学生数などで熾烈(しれつ)な競争を強いられるようになった。

 こうした背景で、社内でリクナビの抜本的な改革が検討されるようになったのは2015年ごろ。それでも、新しく導入されたのはエントリーシートの添削や学生の悩みに答えるチャットボット程度だった。画期的な新メニューはなかなか生まれず、「従来型のビジネスを営業力で持たせているような状態が続いている」(リクルートキャリアの社員)。

 同社は非公表としているが、リクナビ新卒領域の年間売上高は近年100億円程度で横ばいが続いているもよう。元社員によれば、「企業や大学への営業、イベントの企画や運営などで同サービスだけで700人程度の人員が割かれていて、リクルートの中でも利益率が高くない事業だ。新卒一括採用が崩れる可能性がある中で、リクナビの収益性がさらに低下していくのはみんな分かっている」。

 革新的なサービスが生まれないまま、社内には「企業重視、学生軽視」の雰囲気が徐々に強くなっていった。直接的な収入源である企業側のニーズを色濃く反映したサービスが求められるようになった。別の元社員は「KPI(主要業績評価指標)は掲載企業数で、学生の満足度や登録者数は二の次。ユーザーに寄り添うという視点が欠けていた」と打ち明ける。

 この元社員がユーザー軽視の風潮を強く感じたのは、リクルートグループが2014年に始めた「Biz-IQタレントファインダー」だった。導入企業の社員が自分のFacebookなどをタレントファインダーに登録すると、独自のプログラムがその社員の友人を評価。導入企業と相性のよい人材を推薦する。企業の人事担当者は推薦された転職候補者に対して、「いい候補者なのかどうか」という観点で「◯」「△」「×」で評価することができる。

 大きな批判は起きなかったが、この元社員は強烈な違和感を抱いた。「評価された側がどう感じるかという視点がない。今回の内定辞退率予測と、『企業重視、ユーザー軽視』という点では根は同じだ」。

 売り上げの伸び悩みという焦りの中で、企業が喉から手が出るほど欲しい内定辞退率の予測サービスは画期的なアイデアだった。リクルートキャリアのある社員は「競合のマイナビとの差異化という点でも魅力的なサービスだった」と語る。

 リクルートキャリアはこれまで同サービスを大手メーカーなど38社に提供。1社400万~500万円で契約していたという。試験的サービスとの位置付けで提案先を絞って営業していたが、「予測精度など事業として十分成り立つと判断したら一気に広げるつもりだったと思う。手間がかからないのでリクルートキャリアにとってはドル箱商材になってもおかしくなかった」(リクルートキャリア関係者)。

 内定辞退率を予測するサービスの廃止に際し、リクルートキャリアは「学生の皆さまの心情に対する当社の認識欠如こそが、根本的な課題であると認識するに至りました。(中略)本来であれば学生の皆さまの視点に十分に寄り添うことを第一にすべきだったと重く受け止めております」とコメントした。

 「2021年新卒について、企業向けの営業はほとんど終わっている時期なので問題ない」(リクルートキャリア関係者)とする声もあるが、学生への影響は計り知れない。このまま学生軽視が続き、根幹である登録学生数が減少し、「誰もが使っているからリクナビ」という企業の信頼が失われるようなら、新卒採用プラットフォームのデファクトスタンダードとしてのリクナビの立場は盤石なものではなくなっていくかもしれない。