新型コロナウイルスによって我々の生活やビジネスに様々な制限がかかるようになってから、もう1年半近くの月日が流れようとしている。この状況に振り回されつつも、ニューノーマルの生活にある程度慣れてきているのが現状ではないだろうか。一方そうした状況に適応するのが精いっぱいで、どうやってニューノーマル下でビジネスを開拓していくかはまだ手探りだという声も聞く。内需が減少する中で海外市場への期待も聞かれるが、国によってはまだ新型コロナの状況が深刻でビジネスを拡大するどころではない場合もある。

 そうした中で改めて注目されるのが、コロナを早期に克服したようにも見える巨大な中国市場だ。しかし今年5月に発表した第1四半期実績において中国エリアで前年同期比41%増の成長を果たした資生堂のような企業がある一方、日本貿易振興機構(JETRO)が3月に発表した実態調査によれば、前年調査から10ポイント以上多い44.7%の日本企業が20年の営業利益の見通しを「昨年比で悪化する見込み」と回答しているなど、さらに難しい市場になってきていることも事実だ。

 では日本企業の勝ち筋はどこにあるのか。もちろん多くの要素があり一発ですべてを解決できる「銀の弾丸」など存在しないが、中国でも買い物の動機に占める「好きだから/欲しいから」といった情緒的な要素の占める比重が SNS(交流サイト)などを通じて流れ込む大量の刺激的な情報によってどんどん大きくなっている中で、そうした「気持ちを動かす」コンテンツに強い日本の経験を生かすという方法はあるのではないだろうか。

 実際中国ではいま、エンターテインメントやコンテンツは若者を中心にかつてない規模のビジネスになっている。例えば今年の春節興収トップだった映画「你好,李焕英」は54億元(約920億円)を稼ぎ出し中国映画興収歴代2位に食い込んでいる。また日本人が見事勝ち抜き中国デビューを果たしたテンセントビデオの大型オーディション番組「創造営2021」は累計56.5億回の再生、4月末に放送された決勝戦は2.25億回再生された。

 しかし市場が広がれば当然参入者も増え、競争は激化する。そうした状況下で日本企業や日本のコンテンツはどのように戦えばいいのか。今回は中国のSNSで650万人のフォロワーを有するトップインフルエンサーであり、8年間の中国生活から現在は日本に居を移し活動する山下智博さんに話を聞いた。

<span class="fontBold">山下智博(やました ともひろ)</span><br />中国版YouTube「bilibili」のチャンネル登録者数は265万人超え、総再生回数4億回を突破した、中国のネット上で最も影響力のある日本人。2013年に動画投稿を開始し、ビリビリ動画主催【BILIBILI POWER UP 2018】にて「UP主100選賞」と、「ビリビリ10周年特別賞」を8人中唯一の外国人として受賞。翌年には「UP主100選賞」を日本人初の2年連続受賞という快挙を達成。自らを「民間外交官」と称し、日中文化交流の懸け橋となるべく活躍の幅を拡大中!
山下智博(やました ともひろ)
中国版YouTube「bilibili」のチャンネル登録者数は265万人超え、総再生回数4億回を突破した、中国のネット上で最も影響力のある日本人。2013年に動画投稿を開始し、ビリビリ動画主催【BILIBILI POWER UP 2018】にて「UP主100選賞」と、「ビリビリ10周年特別賞」を8人中唯一の外国人として受賞。翌年には「UP主100選賞」を日本人初の2年連続受賞という快挙を達成。自らを「民間外交官」と称し、日中文化交流の懸け橋となるべく活躍の幅を拡大中!

5年前なら楽勝だと思っていたが……

藤井直毅(以下、藤):東京に戻られたとうかがったときには少し意外な気もしました。新型コロナの影響なのでしょうか。

山下智博氏(以下、山):いや、実は新型コロナ流行より前の19年ごろから東京と中国の2拠点でビジネスをしていました。中国には8年ほど住みましたが、おかげさまで動画クリエーターとしては一定の評価を頂いているだけでなく、数万人規模のイベントのMCなども務めました。外国人としてやれることは相当やりきったと思います。しかしその一方、僕が活動を始めた2013年と比べると、短い時間で中国のクリエーターのレベルは信じられないほどに上がりました。正直、個人でそれに立ち向かっていくのは苦しいなと感じたという面もあります。

:山下さんのSNSでのフォロワー数は650万。もちろん全体ボリュームが違うのは分かっていますが、日本のTwitterフォロワー数で言えば有吉弘行さんに次ぐ5位という数です。おそらく中国インターネット界広しといえども山下さんほど知名度がある外国人は数えるほどでは? 日本人ではトップだと思います。

:そうかもしれません。しかし先ほど「外国人として」と言ったように、やればやるほど痛感するのは、「中国人の心を動かすボタンの場所は中国人にしか分からない」ということです。僕が扱う動画のようなものは特にコメントなどにしっかり反応できる、ファンと交流できる人が強い。中国語が話せたとしても、やはり外国人にはハンディがあります。

 また僕の場合はバラエティーに関わることが多いですが、近年中国でも個々のクリエーターのレベルが上がっていることを肌で感じます。業界全体としてもかなり知見がたまり、「この件ならあの人、あの会社」といった全体のエコシステムも整ってきている。もちろん中国ですからそれが毎日のように変わっていくわけですが、それでも蓄積が共有され、業界水準は飛躍的に向上しました。

 また単純に動く金も大きい。予算が大きければ必ずいいコンテンツが作れるというわけではありませんが、その大きさゆえに細部においては現場の若手の裁量で決めることができることもある。自由なトライアンドエラーの中からいいものが生まれればそれが全体に採用される、といったことも起きています。細かい傷を気にしなくてもいい余裕があると言ってもいいでしょう。5年前であれば日本のバラエティーは中国に絶対に負けないと思っていましたが、いまはかなり危機感を持っています。

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