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 貿易や金融の国際拠点として中国と西側諸国を結ぶ窓口として発展してきた香港。グローバル企業の多くが拠点を置くが、中国が統制を強めるために「香港国家安全維持法」を制定したことで「大陸化」が加速し、その魅力は急速に失われつつある。

(写真:ロイター/アフロ)

 英国は約300万人の香港市民を対象に移住を認める方針を明らかにした。台湾は既に移住を検討する香港市民向けの窓口機関を設置するなど、「脱香港」の流れが加速している。

 だが、こうした地位低下にもかかわらず、香港の不動産価格は上昇するとの見方がある。三井住友DSアセットマネジメント香港の佐野鉄司・チーフアジアエコノミストは「香港の中古住宅市場はしばらく低迷が続いたが4月に反転した。オフィス賃料も21年1~3月期には持ち直しに向かう」と予想する。

 返還時の1997年7月の市況を100として指数化した香港の中古住宅指数(週次ベース)は4月中旬の174.9を底に反転。6月も180台をつけるなど回復が鮮明だ。回復の要因は大きく2つある。1つは新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた点。そしてもう1つが、国家安全維持法によるデモ収束での治安の改善だという。

中原地産 中古住宅価格指数(週次)
(注)データは2019年1月第1週から2020年6月第4週。
(出所)CEICのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 19年には逃亡犯条例改正案に反対する大規模デモなど抗議活動がいたるところで実施され、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は法案の撤回に追い込まれるなど、政府と民主派の対立が深刻化した。

 一部で抗議活動が過激化し、警察と衝突するなどして香港の治安やイメージが悪化。観光業が振るわず2019年のGDP成長率は前年比-1.2%と、10年ぶりのマイナスになった。中古住宅の価格上昇は、香港国家安全維持法の施行で抗議活動が減り、経済活動が本格的に回復するというシナリオから生まれているようだ。

 だが、懸念材料も少なくない。香港そのものの魅力が欠落することによる評価の下落だ。

 事実、急回復していた香港の不動産株は7月7日に落ち込んだ。3月に一時33香港ドル台を付けた長江実業集団の株価は、コロナ収束や香港国家安全維持法施行で上昇して7月6日には49香港ドルと3月の底値から5割上昇した。だが、7日には3%下落した。香港不動産銘柄の信和置業なども7日以降、回復した株価が下げに転じている。

 その要因が、米フェイスブックやツイッターなど外資系企業の動きだ。両社は香港国家安全維持法の制定などを受けて、香港政府から利用者データの開示を要請されたとしても、当面は応じない方針を示した。香港で広く使われる対話アプリ「ワッツアップ」もフェイスブック傘下のため、同様の措置が取られる。グローバル企業の香港離れの流れが不動産株の売りにつながったとみられる。

 政府に対する抗議で香港国家安全維持法違反としての逮捕者も出た。強い権力で押さえつけることで「上辺の平穏」を取り戻したように見せても、香港そのものの魅力が失われてしまえば、不動産価格の上昇も一炊の夢に終わるかもしれない。