休憩施設や農産物の直売所があり、多くの人でにぎわう道の駅。全国に1000以上あり、年間の累計利用者数は2億人、売上高は2500億円に達する。この道の駅の持つ力を活用しようと、企業が道の駅に進出するケースが増えている。初回は雑貨店「無印良品」が進出したある道の駅の事例を見てみよう。
山際は霧で白み、雨が降ったり止んだり。すっきりしない天気にもかかわらず、昼時とあってその施設はにぎわっていた。6月下旬のとある平日の福島県浪江町。バンで乗り付けた作業服姿の男性たちや、中高年の女性グループ、向かいに見える役場の職員とおぼしき姿もある。皆、ご当地グルメのなみえ焼きそばや、名産のタマネギをふんだんに使った生姜焼きなどを頬張り、楽しげだ。
東日本大震災から10年という節目の2021年3月、道の駅なみえは正式オープンした。東京電力福島第一原子力発電所の事故で全住民が避難を強いられた浪江町の今後の復興拠点だ。飲食店に直売所、地元の焼き物の体験コーナーのほか、津波で酒蔵を流されるも山形県長井市で醸造を続けた鈴木酒造店が蔵を開き、搾りたての日本酒が飲めるのも目玉だが、えんじ色に白抜きの「無印良品」の4文字が書かれたのぼりがやはり目を引く。
良品計画が運営する雑貨店、無印良品が道の駅に出店するのはこれが初めてのことだ。重ねて言えば、ここまで小さな商圏に店を構えるのも初となる。これまで地方に店を出す場合には、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで。震災前には人口約2万1500人を数えた浪江町だが、現在、避難先から戻って暮らすのは約1600人にとどまる。



10万人未満の商圏に進出した理由
近隣で一番大きな自治体である福島県南相馬市でも人口5万2000人程度で、良品計画ソーシャルグッド事業部長の生明弘好執行役員によれば、「商圏人口はおそらく周辺をかきあつめても10万人に満たない」。過去に例のない小商圏に進出したのはいかなる算段からなのか。
浪江町と良品計画との接点ができたのは、房総半島の南にある複合施設「里のMUJI みんなみの里」(千葉県鴨川市)を介してだった。良品計画が18年4月から運営している直売所やカフェからなるこの複合施設を、浪江町の担当者が視察に訪れたのがきっかけだ。
道の駅なみえには約50坪のテナントスペースがあり、当初はコンビニエンスストアを入れる考えだった。しかし、復興が進むにつれ、周辺に複数のコンビニが出店。それならばと、ドラッグストアに打診をしたが、商圏の小ささを理由に断られた。正式開業に先立つプレオープンが迫り、担当者らが途方に暮れる中で、良品計画が一肌脱いだ。
同社は本社を置く東京都豊島区のまちづくりに積極的に関わるなど、地域貢献や社会課題解決には熱心だ。山間部を中心に今も町域の約8割に避難指示が出ている浪江町の復興の一助になりたいという動機がまずあった。ただ、出店を決めたのはそればかりではない。
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