コロナ禍が経済を恐慌に落とし入れるのを防いで賞賛を浴びた世界の中央銀行が今、その後始末に苦慮している。どの中銀も予想あるいは予防できなかったインフレの高進と格闘しているのだ。

 世界の中銀はさまざまな金融緩和手段によってコロナ危機に立ち向かい、先を見越した対応を採ったように見えた。ところが、ここ数カ月間は予想を外し、自らの過ちを認めるという屈辱を味わい、政治家から追求され、国民の信頼感を失った兆候も一部に出ている。

コロナ禍が経済を恐慌に落とし入れるのを防いで賞賛を浴びた世界の中央銀行が今、その後始末に苦慮している。写真はワシントンのFRB。1月撮影(2022年 ロイター/Joshua Roberts)
コロナ禍が経済を恐慌に落とし入れるのを防いで賞賛を浴びた世界の中央銀行が今、その後始末に苦慮している。写真はワシントンのFRB。1月撮影(2022年 ロイター/Joshua Roberts)

 中銀にとって一番の使命は物価の安定だが、米連邦準備理事会(FRB)や日銀といった主要中銀から、カナダ銀行、オーストラリア準備銀行といった各地の中銀に至るまで、多くの中銀が信頼感に傷を負った。政策対応で後手に回り、それに伴って景気後退の確率を上げてしまったからだ。

 「中銀は目を閉ざしていた。世界中の政府と中銀による巨大な刺激策を受けてインフレが定着する、あるいはインフレ率が上振れするという声に一切耳を貸さなかった」と語るのは、スコシアバンク(トロント)の資本市場経済分析責任者、デレク・ホルト氏だ。

 「2020年には既に(インフレになる)証拠は出ていたと私は思う」が、中銀はさらに1年間緊急プログラムを続け、当初のインフレ率上昇を一過性のものとして片付けた、と同氏は指摘する。

 その結果、この1週間余りの期間に、FRBは1994年以来で最大となる0.75%幅の利上げを実施して市場を動揺させ、欧州中央銀行(ECB)は国債利回りスプレッドの拡大を抑えるために新たな緊急措置を慌てて模索し、スイス国立銀行は予想外の利上げを決め、イングランド銀行は経済見通しでスタグフレーションの進行を示唆。そして日銀の黒田東彦総裁は「家計が値上げを受け入れている」との発言で謝罪に追い込まれた。

 コロンビア・スレッドニードルのシニア金利アナリスト、エド・アルハサイニー氏は、2007─09年の金融危機以来、各国中銀は経済成長と雇用を支えるため、また国によってはデフレ脱却のために「他の中銀よりも大幅に緩和する」競争を繰り広げてきたと指摘。今ではそれが逆転し、インフレが定着して人々の賃上げ、インフレ予想が上昇するリスクが高まったと語った。

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