で、お値段はどうやって決まるのでしょう

それで実は気になったのが、スープラとZ4の価格です。パワートレインを共用し、同じ工場で生産されるわけですから、価格ってどうやって決めるのか?

スープラ
RZ:690万円
SZ-R:590万円
SZ:490万円

BMW Z4
M40i:835万円
sDrive20i M Sport :665万円
sDrive20i Sport Line :615万円
sDrive20i:566万円

多田:クルマって一般的に製造原価があって、それに何割のせてみたいな話もありますけど、特にスポーツカーはそんなことでは決められません。ブランドバリューとしてトヨタブランドの上限、レクサスブランドの上限みたいなものがあって、中身がどんなに良くてもそれを超える価格はつけられない。そういう意味では価格はマーケットが決める、といえます。だからどこのメーカーも宣伝をやってマーケティングの施策をやって、一生懸命ブランド価値を高めようとしている。ランクル(ランドクルーザー)のような特殊なモデルは別にして、スープラはいまのトヨタブランドのほぼ上限なわけです。マーケットごとの販売台数や景気や為替の変動、収益性などを鑑みて、いろんな条件を総合的に判断して、最後は販売担当の役員が決済する、という流れになります。

たしかにランクルの上位グレードが約685万円ですから近いですね。まあランクルとスープラを比較する人はいないと思いますけど。ところでZ4の6気筒モデルと比較すれば、スープラのほうが100万円以上安いということになります。もちろん装備差もあるでしょうし、一般的にオープンカーにすれば50万円くらいは余分にコストがかかるといわれますし、国によっても違うと思います。で、値付けって、BMWと相談したりするものなのですか?

多田:それをやると逮捕されます。競争法というものがあって、談合になる。

独禁法か。クルマもそうなんですね、知りませんでした。

多田:それはものすごく厳格に決められています。日本はもちろんドイツでもより厳しく運用されていて、もしやれば「マーケットをコントロールしようとした」として厳しく処罰されます。

ということは、BMWの価格は発表されて初めて知ると。

多田:もちろんそうです。ふーん、そうなんだという感じです。Z4は先代モデルがありますからそれとのバランスもあるでしょうし、日本はトヨタにとってマザーカントリーなわけですから、そういう配慮だってある。

たしかに。先日Z4にも乗りましたけど、先代とは全然違うクルマになってました。まさにスポーツカーになった。そして今回スープラを試乗して、スープラはいい意味で、トヨタっぽくないクルマだと感じました。これが今後もっと煮詰まっていけば、すごいスポーツカーになるポテンシャルを感じました。

多田:うれしいですね。BMWの開発陣ともよく話したんです。せっかく一緒にやるのだから、これまでのBMWのテイストの範疇にあったり、トヨタの範疇にあるようなクルマじゃつまんないよね。そもそもオープンとクーペでボディを造り分けて、チューニングも違えばおのずと味わいは違ってくる。BMWとトヨタの両方のお客様から、こんなにいいクルマができたんだ、といわれるようにしたいねと。

ありがとうございました。

多田さんをはじめスープラの開発関係者の皆さん。マグナ・シュタイヤー グラーツ工場にて。(写真:トヨタ自動車)
多田さんをはじめスープラの開発関係者の皆さん。マグナ・シュタイヤー グラーツ工場にて。(写真:トヨタ自動車)

 スポーツカー造りは大変な商売だ。いま日本のメーカーで途絶えることなくモデルチェンジを重ねられているのは、30年続くマツダ・ロードスターだけだ。これもフィアットとの協業によってビジネスを成立させている。日産GT-Rは2007年から、フェアレディZは2008年から、トヨタ86/スバルBRZも2012年の発売以来、フルモデルチェンジすることなく年次改良を加えるなどして生産が続けられている。

 最後に多田さんは、スポーツカーを造り続けることについてこんな話をしてくれた。

 「景気の変動があって、そのときに真っ先にしわ寄せがくるのがこういったスポーツカーです。台数も少ないし、やめても影響が少ない。でも、結果的に一番ファンを裏切ることになる。造ったりやめたりすることくらい、ファンをがっかりさせることはない。それはもうだめだよね。だからたとえモデルチェンジのサイクルを長くしても、造り続けなきゃいけないと思うんです。そして何よりトヨタがGRという別のカンパニーを造ったことが、これからもスポーツカーを造り続けるということの、意思表示なのです」

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