まあZ4はオープンカーですから女性ユーザーの割合も高いでしょうし、BMWサイドもいやだったかもしれませんね。しかしトヨタサイドをどうやって説得したんですか?

多田:実は何も説明していない(笑)。正確にいうと、無論、勝手にいうことを聞かずに造ったというわけではありません。というのは、「なんでも合意の上で造る」という従来のやり方が、86のころからずいぶんと変わってきたんです。

全員合意が望ましいものと、そうでないものがある

多田:(関係者全員が)合意したほうがいい商品ももちろんあります。カローラやカムリであれば、たくさんの人の意見をあつめたほうが絶対にいい。でも、スポーツカーのようなものはそうじゃない。そういった多様性が認められるようになったのは、豊田(章男氏)が社長になったおかげだと思います。そこはちょっと自慢していいところかなと。社内の設計ルールは商品のど真ん中を支えるものですが、そうじゃない製品をつくるときには、そのお客様の像にあったかたちにモディファイできるフレキシブルさを持つ。これは極めて真っ当なことだと思いますね。

そういえば、前回のインタビューで「MTって必要か」という話題がありましたが、結局設定されなかったんですね。それはどういう判断だったのでしょうか?

多田:全車8速のATです。このスポーツオートマチックの出来がいい。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に比べて変速が遅いということもない。そして何よりのアドバンテージは、実は「軽い」ということなんです。

スープラとZ4のインテリア。スープラのほうはモニターやスイッチ類などはBMWの旧世代のものを活用。BMWでは新型3シリーズなどと同じく最新世代となっており、両車のデザインはまったくの別物。ステアリングもZ4は極太で、スープラは細い。
スープラとZ4のインテリア。スープラのほうはモニターやスイッチ類などはBMWの旧世代のものを活用。BMWでは新型3シリーズなどと同じく最新世代となっており、両車のデザインはまったくの別物。ステアリングもZ4は極太で、スープラは細い。

ATで軽さがアドバンテージ、それは驚きです。

多田:DCTよりも軽くて、マニュアルにも匹敵しそうなくらいのものです。だから性能面でいえば、マニュアルは必要がない。

でも米国市場では、ほしいという人が多いのでは?

多田:要望はめちゃめちゃ多いです(笑)。いまインターネットにスープラにマニュアルを復活させる声を集めたサイトができていて、投票結果が毎週私のところに送られてくる。もう圧倒的にマニュアルは必要だ、ってことになってる。

Z4は2リッターモデルにマニュアルモデルを追加すると、本国ではニュースが出たようですが。

多田:マニュアルモデルを造らないと言ってるわけではなくて、まずはあのATを試してみてくださいということです。それでもどうしてもマニュアルがいるという声が続くようなら、どこかのタイミングでマニュアルを用意すればいいでしょうと。

 スポーツカーだから毎年アップデートするのは当たり前のことなので、それは問題ありません。ただずっとテストで延々と乗ってきましたけど、86とはスピードのレンジが全然違うので、マニュアル操作で楽しむには相当な運転スキルが必要になります。マニュアルで乗りたい人のために86があるわけで、もし86がなければ、スープラでマニュアルも造ったし、リアシートだってつけたかもしれない。86はタイヤもプリウスと同じもので、それほど高くないグリップ限界の範囲でスライドコントロールを覚える練習機みたいなもの。一方でスープラは市販タイヤとしてもっともグリップ力の高いミシュランパイロットスーパースポーツを履いた、いわばジェット戦闘機みたいなものなんです。とにかくマニュアル派の方もぜひ一度試乗してもらいたいですね。

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