多田:(スープラはFR、ケイマンはミッドシップと)駆動方式が異なるのでいろんな特性は違うんですけど、数値性能としては、0~100km/hの加速と、スラロームの通過スピード、これらを代表特性において、いつもポルシェケイマンSと比べてました。で、なかなか彼らを上回ることができなかったんだけど、最終のプロトタイプができる前の段階くらいで、どちらも上回ることができたんです。

おぉ~。ところでこのスープラは日本ではなく、マグナ・シュタイヤー(※)で造られるそうですが、それはやはりBMWとの関係性からですか?

(※ マグナ・シュタイヤー:オーストリア・グラーツにある自動車製造工場。メルセデス・ベンツGクラスの開発製造拠点としても有名。1998年にシュタイヤー・ダイムラー・プフがカナダに本社を構える世界有数のメガサプライヤー、マグナ・インターナショナルの傘下となったことで、2001年に社名が現在のマグナ・シュタイヤーになった。少量生産モデルの製造にたけており、現在もメルセデス・ベンツGクラスをはじめ、ジャガーE-PACEに電気自動車のI-PACE、BMW 5シリーズを手がけている。今回、さらにBMW Z4、そしてトヨタ スープラの生産を担当することになる)

多田:もちろんそれもあります。マグナ・シュタイヤーって少量生産車を造るのが得意なんです。数年前までは凝った造形のプジョーRCZ(スープラと同様、凹型のパゴダルーフが特徴)の生産も手がけていましたし、実はわれわれも関係性があって、86のオープンカーをモーターショーなどにコンセプトカーとして出しましたが、あれも市販を前提にマグナ・シュタイヤーで一緒に開発していました。残念ながらいろんな条件が整わなくて市販化はできませんでしたけど、そのときからの付き合いがあります。これ以外にもヨーロッパには、いろんなノウハウを持ったメーカーがたくさんあって、そういうところとうまく連携をして生産しています。

ということは、スープラとZ4は混流生産されている?

多田:スープラとZ4、そして5シリーズが一緒に流れています

スープラ1号車が造られている様子。後方にちらっとZ4の姿が見える。(写真:トヨタ自動車)
スープラ1号車が造られている様子。後方にちらっとZ4の姿が見える。(写真:トヨタ自動車)

それぜひ見てみたいです。

多田:マグナ・シュタイヤーっていろんなメーカーの製造を請け負っているだけにセキュリティーはめちゃくちゃ厳しいからねえ……。

ところで、スープラの世界初公開は今年1月のデトロイトショーでした。やはりスープラにとってメインマーケットである米国市場の反応が気になるところだと思いますが、いかがですか?

多田:発表後に出た記事などを見ていると、私の個人的な印象ですが7割がネガティブなもので……(苦笑)。

「たった340馬力?」最初の反応は7割がネガティブ

それはなぜ?

多田:映画の「ワイルド・スピード」の影響もあってか、GT-Rと並ぶような性能を期待されていたみたいで。チューナーの人たちをはじめオピニオンリーダーが、「340馬力なんて、真面目に造っているのか」といった記事がたくさん出た。

ああ、500馬力オーバーみたいな、そういう系を期待されていたと。たしかにスープラってGTのイメージがありますしね。

多田:ところが価格が約5万ドルから、ということが浸透してくるとだいぶ風向きが変わってきた。「なんだ、10万ドルクラスのスポーツカーだと思っていた」と。米国のプレス向けの試乗会では、有名なチューナーにも参加してもらって、だんだん評価が上がってきています。アメリカでの発売は7月なので蓋を開けてみるまではわかりませんが、SEMAショー(11月にラスベガスで開催される世界最大級のカスタム&チューニングカーショー)に出したいから、ホワイトボディでいいから早く納車してくれなんて要望もいただいてます。

ちなみに仕様って、ステアリング位置以外に、アメリカと日本と欧州で違うところってあるのでしょうか?

多田:例えばマフラーは全然違います。それはなぜかというと、騒音の規制が、国によって異なるからです。アメリカが一番規制がゆるくて、日本、欧州の順番に厳しくなる。アメリカは規制値の限界まで音が出るようにしてあるので、比べると相当に違う。特にヨーロッパのお客さんがアメリカ仕様の音を聞いたら、まったくの別物で驚くと思います。

スープラとZ4のテールまわりのデザイン。エグゾーストパイプエンドの形状もそれぞれ独自のものが採用されている。
スープラとZ4のテールまわりのデザイン。エグゾーストパイプエンドの形状もそれぞれ独自のものが採用されている。

次ページ 「何があっても文句言いません」と誓約書を書いた