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 米連邦準備理事会(FRB)が6月19日、米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合後に公表した声明文の表現を改めたことから、米国では早期利下げの見方が強まっている。中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明する「フォワードガイダンス」は日本を含めた中銀が採用している。だが、ある気鋭の経済学者はその効果に懐疑的である。

 「フォワードガイダンスは米国や日本で近年、極めて重要な政策になっている。だが低金利の中でさらに利下げを表明したところで、人々の景気の先行き見通しを変えて消費をこれ以上刺激することは難しい。効果は小さなものにとどまるだろう。低金利下では、長期的には政府負債の増大につながるものの、非伝統的な金融政策とともに財政刺激政策を考慮することが重要」――。こう指摘するのは、金融政策や価格の硬直性などを実証研究する米カリフォルニア大学バークレー校の中村恵美(Emi Nakamura)教授である。カナダ国籍と米国籍を持つ日系二世だ。

中村恵美(Emi Nakamura)
米カリフォルニア大学バークレー校教授
1980年10月生まれ。2001年、米プリンストン大学で経済学を学び、最優等で卒業、米ハーバード大学大学院でロバート・バロー教授らに師事、2007年に経済学で博士号取得(Ph.D.)。米コロンビア経営大学院で助教授、准教授、教授を経て2018年から現職。経済学者の夫と子供2人、38歳。

 中村教授はこのほど、40歳以下の米国の経済学者に与えられる「ジョン・ベーツ・クラーク賞」を受賞した。同賞は、ノーベル経済学賞の登竜門といわれ、過去には故人のポール・サミュエルソンやミルトン・フリードマンをはじめ、現在も活躍するロバート・ソロー教授やポール・クルーグマン教授、ジョセフ・スティグリッツ教授ら、のちにノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者が受賞者に名を連ねる。

 金利がゼロより下がらない状況の中、非伝統的な金融政策が多くの国で採用されてきたが、その正当性は理論モデルで担保されていると考えられてきた。最も典型的なものがフォワードガイダンスだ。「フォワードガイダンスはニューケインジアンと呼ばれる我々世代の研究者が提案したもの」と、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授はいう。「しかしその理論モデルがよって立つ仮定の吟味が不十分だった。実際、フォワードガイダンスは当初考えられていたほどの効果を発揮しておらず、仮定が正しくなかったことを示している。中村教授らは仮定を丁寧に見直すことで、ゼロ金利下の金融政策の議論に大きな影響を及ぼした」。

 またこれまで注目を浴びた研究の一つに、夫であるアイスランド人のジョン・スタインソン米カリフォルニア大学バークレー校教授と発表した論文がある。米国州政府を国とみなし、合衆国を通貨連盟に見立てながら、各州のGDP(域内総生産)と軍事支出の解析を通じて低金利の先進国における財政刺激策の有効性を検証したもので、冒頭のコメントの裏付けの1つともなる知見を提供している。