米医薬品大手・バイオジェンがエーザイと共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム(一般名・アデュカヌマブ)」は、米食品医薬品局(FDA)が約20年ぶりに承認したアルツハイマー病向け新薬となった。
だが、これによって強固な証拠の確立を後回しにして市販を許可するFDAの「迅速承認制度」が史上最大の危機に直面している、と専門家などが警告している。
アデュカヌマブが承認を得られたのは、あくまでアルツハイマー病の原因である可能性が大きいとみなされる脳内の有害タンパク質「アミロイドベータ」を減らすことができるという証拠に基づいた対応。アルツハイマー病の進行自体を本当に遅らせる効果があると、はっきり証明されたわけではない。
1992年に導入された迅速承認制度の下で、これまでに承認された案件は250件を超える。制度が主に適用されるのは希少疾患、つまり患者数が少なくて有効な治療法が手に入らないケースだ。FDAは承認後、製薬会社に追加臨床試験で効果を確認することを義務付け、効果が確認できないと承認は撤回される。

しかし、アデュカヌマブの場合、潜在的な患者数や医療制度が負担するコストの面で、迅速承認が過去に適用された案件と根本的に異なる。
さらにFDAは今回、専門家諮問委員会の意見を無視して「強行突破」した。諮問委員会は、バイオジェンが臨床上の有効性を十分に示せなかったと結論づけており、迅速承認決定に抗議する形で、現在までに3人の委員が辞任している。
ペン・メモリー・センターの共同ディレクター、ジェーソン・カーラウィッシュ博士は「FDAの決定は、科学的な手続きと方法の土台を揺るがしている」と苦言を呈した。カーラウィッシュ氏は、アデュカヌマブの臨床試験の1つを手掛けた人物だ。
同氏によると、FDAは独断で決定を下し、諮問委員会に対してアデュカヌマブのアミロイドベータ削減効果が患者の症状改善につながるかどうか検討するよう要請していない。「これは科学的、臨床的、政治的に憂慮すべき出来事だ」という。
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