積極的なロビーイングを進める在日香港人
逃亡犯条例改正案が問題化して以降、日本での積極的なロビーイングを進めてきた在日香港人らのグループもある。東京における香港の民主化を応援するデモなどで集まった香港人のグループだ。
デモを何度か主催してきたのが平野鈴子氏だ。平野氏はその保守的なバックグラウンドからツイッターなどで「香港を自身の反中イデオロギーのために利用している」などと批判を受け、香港の大手紙である明報で区龍宇氏からも同じ批判を受けている。ただ他の保守系活動家に比べると香港まで行って民間記者会で発言するなど、継続的かつ積極的に香港デモに関わっている。香港デモを支援している和服の20代の日本人女性として、香港メディアでも何度も取り上げられている。
平野氏は香港デモに対して積極的に取り組んでいる在日香港人が自身と同じ20代が中心ということもあり、強い仲間意識を抱いているようだった。私がインタビューした際には、「愛国心はあるが、日本の左右の問題は持ち込みたくない。まずは香港ファースト」と述べた。事実、平野氏はリベラル系と評されるジャーナリストの堀潤氏とも連絡を取っているという。
逃亡犯条例改正反対デモ以後、積極的に日本での香港デモや香港の民主化に対して積極的なロビーイングを行っている在日香港人の1人に「村長」(仮名)と呼ばれる人がいる。村長は日本に長年住んでいて香港のニュースをあまり確認しないせいか、香港で2019年6月に100万人デモが起きたことすら当時は知らなかった。その後、香港の自分の実家近くで抗議者と警察の衝突が起きたことで、同8月に初めて抗議活動に参加したという。同9月に参加した東京でのデモでは「香港を応援していいけれども中国を批判してはいけない」という警察からのトラブル防止のための要望を、主催者に告げられたことをキッカケに、同10月は自身の呼びかけで抗議活動を行っている。その後、国会議員など日本の政治関係者に村長など在日香港人らがアプローチし、今回のシンポジウムが実現した。
ローカルとグローバルの2つの文脈で動く香港デモ
デモシストの周氏は、雨傘運動以来、香港の若年層にはあまり評価されていないが、「在日香港人が日本で10回イベントをするより周さんが日本に1回来た方がはるかにメディアは注目してくれる」と伯川氏が言うように、現在では日本のメディアや政治家に対して相当の影響力を持っている。しかし、彼女は現在保釈中の身で香港から出境することができない。在日香港人らにとっては日本の政治関係者と関係性を構築し、彼女がオンラインで出演するようなイベント開催につなげることが重要となっているという。
カナダや英国などと異なり、日本にはこれまで目立った在日香港人によるコミュニティーがなかった。昨年8月に香港の抗議活動を支持する大阪でのデモの前で中国国歌を歌う集団が現れたことはあったが、他国でみられるように中国人および親中派 VS 民主派という形の表立った対立が見られることはほとんどなかった。主だったコミュニティーがない中で、在日香港人はフェイスブックのイベントページを見て抗議活動に集まっている。ただし、村長によると、今回を契機に在日香港人によるコミュニティーをつくり助け合おうとしている人も出てきたとのことだ。
香港の抗議活動は香港の特殊性や米中関係の悪化により、ローカルなものにとどまらず国際性を帯びたものになっている。その背景には、人権や民主主義を重視するリベラルにとっても、反中・反共的姿勢を持つ保守層にとっても理解しやすいものであったという構図があるだろう。米中に挟まれる日本は、両大国の衝突地点となっている香港の抗議活動とは無縁ではいられず、そのグローバルな動きは日本のローカルな動きとも関わっている。香港デモを理解するためにはグローバルとローカルの動向の双方を見ることが重要であると言えるだろう。
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