「クリーンなニホンウナギ」を実現したイオンの取り組み
ウナギの養殖や販売を行っている企業や生活協同組合は、シラスウナギの採捕と流通に違法行為が関わっていることを、よく知っています。違法に流通した可能性が高いことを知りつつも、ウナギの販売を続けているのです。これまでは、違法なウナギと適法なウナギは区別されていませんでした。このため、消費者が違法行為の関わったウナギを避けようとする場合、「養殖ウナギを食べない」以外に、消費者の選べる選択肢は存在しなかったのです。この異常とも言える状況を打開したのが、イオンの今回の新商品です。
2019年6月8日より発売予定のイオンの新しい商品「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」は、正式な許可を得た採捕団体が浜名湖で採捕したシラスウナギを正規ルートで購入し、指定養殖業者が他のルートから仕入れたシラスウナギと混ざらないように育てたウナギです。シラスウナギの採捕と流通に関し、違法行為が関わっている可能性が非常に低い「クリーンなニホンウナギ」と言えるでしょう。持続可能とは言えないまでも、シラスウナギ採捕水域までトレース可能な、「クリーンなニホンウナギ」の販売は、筆者の知る限り日本で初めての快挙です。
メディアが注目したのは「鮭ハラスの蒲焼」だが……
2019年6月3日に行われたイオンの発表は、多くのメディアで報道されました。しかしメディアから注目を浴びたのは、ニホンウナギにとっても消費者にとっても重要なトレーサビリティーの確立ではなく、同じ発表の場でウナギ蒲焼の代替品として紹介された「鮭ハラスの蒲焼」でした。
例えば日本経済新聞は2019年6月3日に、「イオン、ウナギ代替にサケのかば焼き 『丑の日』控え」とのタイトルで、イオンの発表が紹介されています 。トレーサビリティーについてはわずか数行が割かれているのみで、タイトル通り、代替品である「鮭ハラスの蒲焼」の紹介に主要なスペースを割いています。
昨今、ニホンウナギの漁獲量の減少や、シラスウナギ流通に違法行為が関わっていることは盛んに報道されており、小売業の現場を取材している記者の方々がそのことを知らなかったとは考えにくい状況です。このためイオンの発表に関する記事を書いた記者の方々は、今回イオンが販売を開始する「トレース可能な、クリーンなニホンウナギ」の重要性に気づかなかったのではなく、背景を知っている上でなお、報道する重要性は低いと判断したと考えられます。
「トレース可能な、クリーンなニホンウナギ」の重要性が高くないと判断された理由として考えられるのは、取材に当たった記者の方々が「企業がどのように売り上げを伸ばそうと努力しているのか」に注目しているためではないか、と考えられます。ウナギの漁獲量が減少し、値段も高くなって客足が遠のく中、いかに代替品で売り上げを確保するのか、という視点が、上記の日経新聞の報道にも見られます。
売り上げを伸ばそうとする努力が盛んに報道されている一方で、持続可能な資源の利用や、違法性の疑われる商材の排除といった、いわゆるサステナビリティーに関する努力については、報道における重要性が低いと判断されているのが現状のようです。
例えばウナギの密漁や密売の蔓延のような、社会の課題が是正されていくために、報道が重要な役割を果たすことは明らかです。しかしながら今回のイオンの発表に関する報道を見る限り、ウナギの問題が適切に報道されているとは考えにくい状況です。
ウナギの持続的な利用を考えた場合、代替品の果たせる役割は限定されています。代替品は供給不足や値段の高騰などによって満たされない需要を満たす役割を果たすものであり、ウナギの消費量を削減する効果を持つとは考えられません。これに対して、トレーサビリティーの確立は、違法行為を減少させるだけでなく、適切な報告に基づく漁獲データの収集を通じて、ニホンウナギ資源の持続可能な管理に貢献します。
目新しさを追求するのではなく、持続可能な社会を目指す視点から、問題の本質を明らかにしていく報道が求められます。
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