新型コロナウイルスの感染拡大を機に、日本企業でもテレワークの導入が進み始めた。けれども、在宅勤務になってかえって「無駄な会議」が増えた──。そう感じている人は少なくない。背景には、脳の生理に反するとも指摘される「オンライン会議」の仕組みがある。テレワークという働き方には想像以上に、社員の意欲減退につながるリスクが内包されている。

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 「3人以上のオンライン会議システムには、通常の会議より脳が内容を理解しにくくなる仕組みのものが少なくない。理解しようとするほど脳は疲労しストレスを感じる。通常の2~3割は脳への負担が増すのではないか」。医師で、株式会社「脳の学校」代表の加藤俊徳氏は、オンライン会議の難しさをこう説明する。

 なぜオンラインだと相手の話を理解するのに労力がかかるのかと言えば、情報収集のチャンネルが一気に減るからだ。1つの同じ空間で会議をすると、人間は発言以外に様々な「非言語情報」を並立処理して、相手の意図を理解しようとする。

 目つきや表情や息遣い、しぐさに細かな表情の変化、いわゆる“場の空気”……。「AさんがBさんの話をさえぎろうとした」「Cさんが関心なさげに体の向きを変えた」「Dさんが話を聞かないことにEさんはイライラしている」といった情報も、人間の脳はその場にいれば無意識のうちに観察する能力がある。そうした複数の情報ルートを駆使し、我々は会議の流れを読み、議論の内容を理解しているというわけだ。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

無駄な会議でも集中が必要

 「議論型」でなく「上意下達型」の会議が中心の日本企業は、そうした脳の機能から見ればある意味、「会議に参加する人の負担は少なかった」と言える。そもそも伝えられるのはイントラネット経由での通達が中心で、特に注意して聞く場面は少ない。意見を求められれば答えなければならないが、自分がいつ発言を要求されるかについては、上で示した「非言語情報の観察」によって、ベテランになればだいたい察知できる。日本の会議の多くは無駄な部分が多く残る半面、比較的ストレスも少なかったはずだ。

 だが、オンライン会議ではそうはいかない。

脳の学校代表の加藤俊徳氏は「視覚選択力の強弱もオンライン会議に影響する」と話す
脳の学校代表の加藤俊徳氏は「視覚選択力の強弱もオンライン会議に影響する」と話す

 非言語情報を十分収集できないため、経営陣から形式的な伝言であっても、議論の流れを読むにはそれなりに話を真剣に聞かなければ、急に発言を求められて返答に窮す。とはいえ、上意下達型とあって内容は退屈。会議が遅々として進まないケースも出てくる。

 さらに加藤氏は「現代人特有の視覚選択力の弱さもオンライン会議には向かない」と指摘する。オンライン会議でも、PC画面に一人ひとりの映像は出るため、理屈の上では、少なくとも表情の動きは観察できそうに思える。

 しかし現実には、会議室の様々な場所に座る人の表情と、狭いPC画面に規則的に並ぶ人の表情とでは、観察する際に必要とされる視力が異なる。加藤氏は「プロスポーツ選手ならともかく、視覚選択力が弱い人にはまず無理」と話す。

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