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 以前、新型コロナウイルスの感染拡大により、突然テレワークせざるを得なくなった中国企業の状況を紹介した。それから3カ月ほどたち、懸念されていたように新型コロナは日本でも猛威を振るい、大手やIT企業を中心に在宅でのテレワークを強いられることになった。そうした企業での打ち合わせは様々なビデオ会議システムが使われている。

 仕事だけではない。緊急事態宣言は解除されたが、気軽に同僚や友達を誘って飲みに行くことは難しくなった。またリモートでの会議は雑談などが生まれづらく、相手が今どういう状態なのか分かりにくい。そうしたことから企業によってはビデオ会議システムを使ったランチやおやつの時間などを別途設けていることもある。プライベートでも通称「Zoom飲み」と呼ばれるオンライン飲み会に参加したことがある人もいるのではないだろうか。

 そうしたシステムの多くで背景を差し替えることができるのはよく知られているが、最近よく使われるようになったのが「アバター」と呼ばれる、キャラクターや顔の上のデコレーションを自分の分身として表示させる遊びだ。これらはカメラで自分の口の動きや表情を読み取り、表示するキャラクターがそれと連動して動くようになっている。自分が口を開ければ画面の中のキャラクターも口を開ける。こうすれば寝間着だろうがノーメイクだろうがみっともなくはない、というわけだ(完全に顔を隠さず、元の顔の上に化粧や眼鏡などを追加するだけの機能ももちろんある)。

「FaceRig」(左)や「Snap Camera」(右)といったソフトウエアを使えば、自身をアバターで表示できる。動物から謎のジャガイモまで、アバターは数多い。技術があれば自分で作成することも可能だ

 これらはお遊びのための機能ではあるが、技術的にはカメラで顔の表面の情報をきめ細かく読み取ってリアルタイムで加工するというそれなりに高度な処理が行われている。そしてこの技術は最近一部で話題になっている「動くアイコラ」、ディープフェイクとも類似している。

米大統領選でも悪用の不安、高度なディープフェイクの脅威

 ディープフェイクとはAI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)により顔の数万点以上にも及ぶ特徴点を検出し他人の顔とすげ替えて作った「フェイク」動画のことで、2017年ごろから成人向けサイトで有名女優の顔を使ったものが流通したことが始まりといわれる。

 フェイク動画を作るためにはAIに学習させる素材が必要で、それは多ければ多いほど精度を高めることができる。また著名人であれば嘘をしゃべらせてイメージを落とすインパクトが大きいということで、俳優や政治家が狙われることが多い。特に11月に米大統領選本選を控えた2020年は、支持しない陣営の信用失墜を狙ってこうしたディープフェイク動画が大量に出回ることが予想されている。

 2度の世界大戦が科学技術の発展を加速したのと同様、多くの利害が絡み多額の予算が投じられる現代の米大統領選は良くも悪くも最新技術の展示即売会となる。前回16年の大統領選では、英選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカによる、SNSを利用したマイクロターゲティングと呼ばれる手法が問題視されたが、今回はディープフェイクをはじめとした「動画」が脚光を浴びるのではないかとみられている。

 プロパガンダを重要視する中国でも当然大規模な投資が行われている。中国の国営通信社、新華社が大手ネット企業、捜狗(SOGO)と共同開発した「世界初のAIアナウンサー」は実在しない人物をゼロから創作したもので、表情は多少乏しいものの、かなりリアリティーのある仕上がりになっている。

 また国営で最大のテレビ局、中国中央テレビ(CCTV)も、実在のアナウンサーをAIで再現して一大イベントである3月15日の消費者デー特別番組の中で起用した。こちらも捜狗との共同開発とされる。政府としての公式のメッセージを伝えることが期待される国営放送のアナウンサーは、豊かな表情や人間味、ウイットのあるコメントはほとんど求められず、冷静かつ正確で権威のある情報の伝達が任務だ。そう考えると絶対に間違えず、24時間何があっても働くことができるAIは適任なのかもしれない。

YouTubeの新華社のチャンネルで公開されたAIアナウンサーの動画