存在感を出せない新興フィンテック

 商流を持つ企業にとって、キャッシュレス決済を自前で導入するメリットがあるとしても、なぜITと金融に詳しいフィンテック企業と協業したり、開発を任せたりする例が少ないのだろうか。

 一つは、「7pay(セブンペイ)」や「ドコモ口座」の不正利用だ。国内小売り2位の超大手やITに知見があるはずの通信会社が見せた脇の甘さは、非専門であっても大手小売企業に自社開発でセキュリティーを確保することを決断させるのに十分な失態だった。

 もう一つの背景は、キャッシュレス決済普及に一役買った「大還元祭り」だ。ただでさえ、「キャッシュレス事業自体は薄利多売」(野村資本市場研究所の淵田康之シニアフェロー)なところに、ユーザーを引きつけるためのキャンペーン合戦となった。

 キャッシュレス決済の主要なプレーヤーはKDDIや楽天など携帯電話やECなど幅広い自社経済圏の構築を目指す大手ITとなり、スタートアップが戦い続けるには厳しくなった。いち早くスマホ決済に参入したOrigamiは経営に行き詰まり、メルカリ傘下のメルペイに買収され、LINEでさえヤフーを傘下に持つZホールディングスとの経営統合を決めた。

 こうした大手はキャッシュレス事業で利益が得られずとも、経済圏拡大に貢献すれば元は取れる。キャッシュレスを専業とするフィンテック企業と異なり、自社のキャッシュレスシステムを他社にも提供して手数料を得るビジネスを展開する意義が薄い。

 「〇〇ペイ」の乱立が起きそうだが、日本人はあまり苦にならないようだ。日本は世界でも数少ない「ポイント文化」が根付く国。他国はポイント付与より値引きを歓迎する傾向があるが、ポイントをためることに関心が高い日本なら、ペイアプリの使い分けも大きな障壁にならない可能性がある。

 大手IT同士の経済圏競争はそう簡単に決着がつきそうになく、圧倒的なキャッシュレスの強者が不在であれば、小売業の自前開発が今後も進む可能性がある。アリペイやウィーチャットペイの2強が支配する中国と対照的に、多少不便でもバラバラに進化するのが日本のキャッシュレス業界かも知れない。

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