世界各地の開発途上国・新興市場国で暮らす数百万の人々にとって、主食となる食材が生活必需品からぜいたく品へと変わりつつある。セルチュク・ゲミチさん(49)もその1人だ。

 ゲミチさんはトルコ最大の都市イスタンブールにある自動車修理工場で働き、妻と2人の子どもと共に父親の家で暮らしている。生鮮食料品に手が届かなくなり、一家はパスタやブルグル(挽き割り小麦)、豆を食べて暮らしているという。

世界各地の開発途上国・新興市場国で暮らす数百万の人々にとって、主食となる食材が生活必需品からぜいたく品へと変わりつつある。写真はイスタンブールの市場で1月撮影(2022年 ロイター/Dilara Senkaya)
世界各地の開発途上国・新興市場国で暮らす数百万の人々にとって、主食となる食材が生活必需品からぜいたく品へと変わりつつある。写真はイスタンブールの市場で1月撮影(2022年 ロイター/Dilara Senkaya)

 「何もかも高くなった。好きなものを買って食べることもできない。当面、財布の許す範囲のものを買うだけだ」とゲミチさん。「子どもたちの栄養バランスも悪い」

 この2年間、コロナ禍による混乱と異常気象を背景に、世界中で食料価格が上昇してきた。さらにロシアのウクライナ侵攻が穀物・石油の供給に与えたショックにより、食料価格は2月、3月と続けて過去最高を更新した。

 エネルギー価格上昇による圧力も高まるなかで、インフレ率は急上昇している。トルコ、アルゼンチンにおける70%、60%前後といった年間インフレ率は極端な例だとしても、ブラジルやハンガリーなどの諸国でも2桁台のインフレを記録している。これに比べれば米国の8.3%は控えめに見える。

 新興市場国では食料価格の高騰が大きな注目を浴び、「アラブの春」を思い起こさせる社会的混乱のリスクも高まっている。政策担当者は、国民の痛みを緩和すべく財政支援に踏み切るか、国家財政の健全性を維持するか、板挟みになっている。

 多くの開発途上国では、インフレ率を計算する際の「バスケット」(生活コストの算出基盤として選ばれる商品)のうち単独で最大のカテゴリーを構成するのが「食品」であり、国際通貨基金(IMF)のデータによれば、インドやパキスタンなどの国では約50%、低所得国では平均して約40%を占めている。

 BNPパリバでグローバル新興市場諸国リサーチ部門を率いるマルセロ・カルバリョ氏はロイターに対し、ウクライナでの戦争が食料だけでなく肥料の供給も混乱させているため、食料価格のインフレは長引く可能性があるとの見方を示した。

 「この状況は続く」とカルバリョ氏。「食料価格は非常に目立つ。食料価格が変動すると、インフレの認識は増幅される。そうなると、(実際のインフレ以上に)不安定なインフレ期待の上昇に拍車が掛かる」

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