人と組織に投資する
リスクについてお話しいただきました。そんな厳しい時代に企業が生き残っていくための方法についてぜひ教えてください。
入山:これらの企業は、今、お話ししたリスクを全部受け止めながら、乗り越えて新しい価値を出していく必要があります。そうやってイノベーションを起こそうと思ったときに、考えなければならないのが、「経路依存性」です。
会社組織はいろいろなものがかみ合っているため、複雑なんです。それがうまくかみ合っているから回っているとも言えます。ただ、だからこそ1カ所だけ時代に合わないからと変えようとしても、変えられません。これを経路依存性といいます。
僕がよく引き合いに出す例は、ダイバーシティーです。ダイバーシティー経営はコロナ前から盛んに言われていましたが、日本の会社はあまり進んでいません。会社の仕組みがダイバーシティーとは真逆の仕組みでうまくかみ合っているからです。
そもそも、本当にダイバーシティーを進めたいなら、新卒一括採用、終身雇用、年功序列を前提とした「メンバーシップ型雇用」を見直す必要があります。多様な人を一括採用、終身雇用で採用できるはずがない。さらにいうと、多様な人を採用したいなら、評価制度を多様にする必要があります。多様な社員を一律に評価できるはずがありません。ところが、日本企業はほとんど評価制度を見直していません。
そして、働き方にも多様性が必要です。ある人は会社に出勤するけれど、ある人は自宅で働きたい。そのように働き方を見直すには、デジタルが必須です。つまりダイバーシティーだけをやっても無理なんです。全体を変えることがものすごく重要です。こうして学者が言うのは簡単ですが、長い間、現場ではそれができなかった。この経路依存性を打破しなければ、日本の会社はいつまでも変わりません。
「経路依存性」を打破する方法はありますか。
入山:全体感を持って経営をすることです。ただし、これはものすごく根気が必要なことなので、パッション、情熱、リーダーシップが重要になってきます。
その上で僕が一番重要で、日本の人材に一番足りていないと思っているのは、意思決定力です。全体を変えるのは簡単ではないため、当然悩んで悩んで、でも最後は腹をくくって決めなければならない。そして、決めたらやり抜く。意思決定して遂行する能力が必要です。
ただ、これができる人材が今の大手・中堅企業には極めて少ない。日本の大手企業の最大の課題は、社長の候補がいないことです。社長の仕事は、「答えがない中で、決める」ことですから。
変化が激しく、さらに環境要因が多数ある時代なので、誰も正解は分かりません。答えがないなかで、それでもリーダーや経営者は決めなければなりません。これまでの日本企業、上司の言うことをうまくこなしていれば、それが正解だと教えられてきました。それを40代までやってきて、50代で執行役員になって急に「正解はありませんが決めてください」と言われても決められないわけです。
では、その意思決定力はどうすれば育ちますか。
入山:意思決定力を上げるには、場数を踏むしかありません。とにかく繰り返すしかない。ここで大手企業とベンチャーに差がつきます。ベンチャー企業の経営者は1日3回くらい大きな意思決定をしています。1日3回ですから、1年で1000回、5年間で5000回です。それに対して、大企業や優良な中堅企業にいたら、そんな機会はほとんどゼロですよ。当然、差がつきますよね。
そのため、僕からのお願いは、とにかく場数を踏ませてほしいということです。経営が厳しい子会社に送り込むのもいいでしょう。組織文化はつくるものです。
これまで日本企業は人と組織づくりに投資をしてこなかったために、負けていました。でも、日本人は優秀ですし、ものづくりやサービスにおいても、素晴らしい技術を持っています。日本の会社には強さがたくさんあります。時間はかかりますが、人材と組織をつくって、イノベーティブな会社にする変革をしていただきたいと思います。
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