ロシアによるウクライナ侵攻の影響も深刻です。

入山:グローバルリスクは高まっていますね。これによってすでに起きているのが「資源高」です。戦争が長引けば、もっと資源高になる可能性があります。しかも円安なので、日本はトリプルパンチくらいの状況です。

 その大変な状況の中で、もう1つ意識しなければならないのが、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)といわれるものです。いまグローバルで地球や世界の社会問題、環境問題を解決しなければならないという流れがあります。ESG投資をしていない会社には、少なくとも海外投資家がお金を出してくれない流れになりつつあります。経営陣やリーダーは真剣に立ち向かう必要があります。

 テクノロジーの加速、資源高、ESGといった3つのリスクは、すでにいわれていることです。さらに2つ、考えておいたほうがいいポイントを僕からお伝えしたいと思います。それは人材についてです。

東南アジアに逆転される

労働人口は減少の一途です。入山さんが考えるポイントとはどういったことでしょうか。

入山:一つのポイントは、新興国市場です。日本は新興国に抜かれるくらいに思ってください。特に今、勢いを増しているのが東南アジアです。あとはインドですね。

 東南アジアでは1990年代以降、日本のメーカーの工場進出が進みました。国内ではコスト高になってしまう部分をアウトソーシングすることから始まりました。そのうち新興国の方々の生活水準も上がり、そこに小売業のイオンなどが進出して、日本的なビジネスを展開することで今までは実績が上がっていました。

 しかし、これが時代遅れになってきています。日本より、新興国の方でイノベーションが起きるようになってきているんです。スタートアップ企業がどんどん出てきていて、グローバル化が進んでいます。ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の数は、インドネシアは少なくとも6~7社はあるはずです。

 少し前まで東南アジアは日本の「裏庭」というイメージがありましたが、今後は逆で日本が裏庭になりかねません。一部ではすでに逆転現象が起きてきていることを意識しなければなりません。

 何より、日本は人材で負けています。東南アジアのトップは、英語はもちろん、多くの人が複数言語を話せます。最初からグローバルを意識しているので、資金調達も国内ではなく、海外投資家に英語でプレゼンして調達するのが当たり前になっています。

日本も人材を育てなければいけない、ということですね。

入山:はい。とはいえ日本企業の、特に大手に目を向けた場合、これから若手社員が大量に辞めるでしょう。よほどいい経営をしなければ、優秀な人が採用できなくなります。これが人材の2つ目のポイントです。

 人生100年時代なので、大学を卒業した20代前半の人が働き続ける年数は、約60年です。それに対して、会社の平均寿命は20年程度といわれています。競争が激化するから、これはもっともっと短くなっていきます。ということは、最低でも、人生で2回は転職しなければなりません。

 僕はいろんな若手と交流していますが、今の若手は誰ひとり終身雇用は信じていません。採用面接で「会社のために頑張ります」「一生身をささげます」と言ったとしても、大体は本心ではないですからね(笑)。そんな忠誠心がある人はほとんどいません。

 他方でリスクを取らず、1カ所で働き続けたいと思っている人もいます。他方で、どの民間企業も安泰には見えないので、そういう人たちはみんな地方公務員を目指します。だから今地方公務員は人気です。二極化しています。

そんな若者たちが選ぶのはどんな企業でしょうか。

入山:若手が辞めてどこに行くかというと、ベンチャー企業です。2022年はエポックメイキングな年になるでしょう。大手企業の30代の平均給与と、ベンチャー企業に勤める30代の平均給与が逆転する可能性が高いからです。今、ベンチャー企業の資金調達額が上がっており、21年は過去最高でした。今年は逆に世界的にマーケットが冷え込むのでベンチャーの資金調達は厳しいですが、それでも国内大手の事業会社から出資を受けているベンチャーなどを中心に、以前よりは潤沢な資金で大手・中堅企業の人材を獲得に行くはずです。

 ベンチャー企業は最初に人材にお金を使います。ベンチャーは夢はあるけれどお金はないために、これまではみんな選ばなかった。今年からは夢があって、お金もあるんですよ。であれば、夢がない大企業にいるよりはベンチャー企業に行きますよね。

 コロナ禍が収まったら、日本は大転職時代になるのではないか、と私は考えています。だから、人材を引き留めておけるような魅力のある経営をしていなければ、負けるということです。「組織は人なり」なので、良い人がいなければ勝つことはできません。

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