新型コロナウイルス禍が収まり切らないなか、ウクライナ危機や急激な円安といったショックが企業を襲っている。だが、企業の生き残りを左右する現象が次々と起こるのはこれからだ。

 コロナ禍後、大手企業で若手社員が大量に辞職する。自動翻訳の普及で日本のサービス業は海外からの激しい競争にさらされる。日本は東南アジアに抜かれる――。数多くの企業を研究し、社外取締役やアドバイザーも務める早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、穏やかでない“近未来予測”をする。経営環境激変のなか、企業に求められる変革とはどのようなものか。語ってもらった。

(聞き手は、日経ビジネス編集委員 谷口徹也)

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授

入山さんは、大学で教べんを執られる一方で、数多くの会社の社外取締役を務めています。業界を問わず、悩みや相談を受けることが多いと思います。コロナ禍やウクライナ危機、円安など、経営環境が激変するなか、特に注目されているテーマにはどのようなものがあるでしょうか。

入山章栄(以下、入山):「変革」ですね。カッコよく言えばイノベーションです。とにかく今は圧倒的に変化が激しい時代です。以前は危機意識が薄かった会社も、コロナ禍を経て、いよいよ危ない、という機運が高まっています。変化が激しい時代に、能動的に変化しなければ、企業や組織はなくなってしまいます。

 ただ、長い間、日本の企業は変革をしてきませんでした。危機意識は高いけれども、なかなか日本の会社は変われない、というのが経営者のお悩みではないでしょうか。この悩みは、超大手企業にも共通しています。

経営環境の変化は加速していくのでしょうか。

入山:さらに加速すると理解しています。一番大きいのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)ですね。とにかくデジタル変革が不可欠です。世界中でデジタルの大きな波が来ていて、その波にのまれた日本の業界は軒並み大変な目にあっています。まずは家電、次に半導体もやられました。米アマゾンが入ってきたことで小売りも大変な状況を強いられています。

メディアも大変な状況です。

入山:紙メディアは生き残りが厳しいでしょうね。新聞も窮地に立たされています。

 ただ、僕は数年以内にもう1回、大きなデジタルの波が来ると考えています。今、インターネットの新潮流「Web3」や、非代替性トークン(NFT)など、どんどん新しいテクノロジーが生まれています。何よりコロナ禍で大きく変わったのは、オンラインのコミュニケーションでしょう。「Zoom(ズーム)」や米マイクロソフトの「Teams(チームズ)」などのツールは、新型コロナの影響で、予定より10年早く入ってきました。

 数年以内に、間違いなくここに自動翻訳が入ります。もうその技術はありますからね。自動翻訳が入るとどうなるか。

 今までドイツ人と話そうとすると、お互いに英語を話せないとコミュニケーションができませんでした。それが、皆さんが日本語で話したことが、そのままドイツ語で伝わり、ドイツ人がドイツ語で話した内容が日本人に日本語で伝わるようになります。その時代は、確実に来ます。

自動翻訳ツールでサービス業が崩壊

便利になりそうですが、どんな影響が考えられますか。

入山:極端に言えば、日本のサービス業が崩壊するのではないでしょうか。サービス業は人が付随しているため、言語に囲まれています。「日本語」という特殊な言葉に守られていたため、これまで国際競争にさらされていなかったんです。日本のサービス産業は生産性が低いとよく言われますが、それは国際競争にさらされていなかったからです。

 自動翻訳が入ると、サービス産業も国際競争にさらされるようになります。最初に大きな影響を受ける業界は、大学だと思っています。国内では有名な大学も、世界では知られていません。翻訳ツールによって日本語で参入されると、米ハーバード大学や米マサチューセッツ工科大学(MIT)にあっという間に負けてしまうかもしれません。

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