山川:最後が、深宇宙補給技術です。深宇宙というのは地球低軌道以遠の月近傍、あるいは月面、さらにその先という意味で、補給というのは「こうのとり」で培った補給技術を発展させ、地球から遠く離れた場所に物資補給を行う技術です。

 この先、国際協力による有人宇宙計画がどのようなものになるかは、まだ分かりません、が、どのようなものになるにせよ、これら4つの技術は間違いなく必要になると予想し、技術開発に取り組んでいるわけです。

 具体的なJAXA単体で実施するミッションとしては、2020年か21年に小型月着陸実証機(SLIM)により高精度の月着陸ミッションを実施します。重力天体への着陸技術の実証ですね。その次に考えているのが、永久影の中に水が存在するのではないかと指摘されている、月の極域への探査です。SLIMの成果をそこで終わらせるのではなく、その後につなげて、日本として継続的に探査を続けていくという意思を示したいと思っています。

 一方で、米国主導のゲートウェイに、日米協力という観点、国際協力という観点で何ができるかという課題への回答が、ECLSSと深宇宙補給技術です。

 さらに、ゲートウェイは月近傍への滞在です。その次のステップとして、当然月に降りて有人探査を行うという構想が出てくるでしょう。今、JAXAは、NASA、欧州宇宙機関(ESA)、カナダと共同で月着陸技術の検討作業を行っています。ちなみに、SLIMの後の月の極域の探査はインドと、共同で検討しています。

 さらには、月の次の探査対象は、火星です。火星に対しては、火星衛星探査計画(MMX)という火星の衛星であるフォボス・ダイモスに行ってサンプリングを採取して帰ってくるサンプルリターン・ミッションを検討しています。これは2024年打ち上げで、2029年、地球帰還というスケジュールでプロジェクト立ち上げを目指しています。フォボスもダイモスも微小重力天体ですから、サンプルリターン技術は、まさに「はやぶさ」「はやぶさ2」の延長線上にあり、我が国が世界的に見ても優位性を確保しています。MMXではドイツのドイツ航空宇宙研究センター(DLR)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)と国際協力でミッションを進めていきます。

 もう一つ大変大事なことは、2024年以降のISS、ポストISSの地球周辺の有人宇宙活動ですね。つまり地球低軌道においても、我が国としてプレゼンスを示し続けていくことは重要な意味があると考えています。

有人宇宙探査は、絶対1国ではできません

松浦:全て国際協力でやっていくということですね。今はそのための布石を打っている段階だ、と。

山川:有人宇宙探査は、絶対1国ではできません。1国でできないからこそ、NASAもいろいろな国と国際協力をしているのです。国際協力の場では、参加各国が得意な技術を持ち寄り、役割を分担していくことが必要です。

 今、日本が、直接的に地球から軌道まで有人宇宙船を打ち上げる技術や、軌道から地上に帰還させる技術を、現時点では持っていないのは、「日本の得意技術は何か、他国が持っていない技術は何か」という問いの結果とも言えると思います。だからといって、国際宇宙探査に貢献していないことにはなりませんし、有人活動というものをやってないということにもならないというのが私の考えです。

松浦:国際的な大きな探査の仕組みを組み上げる中で、日本は地表から出発し、地表に帰還する有人宇宙船を持たなくていいという判断でしょうか。

山川:現時点では、ですね。大きな理由はコストです。有人宇宙船を新規開発すると、コストがいくらぐらい掛かるかは検討していませんが、今話したような地球低軌道から月・火星探査に至るまでの探査の枠組みの中で、なにが日本にとってもっともコスト・パフォーマンスが良いかを考えた結果が、先に述べた4つの技術分野に力点を置くことなのです。ISSにこれまで掛かっている経費の規模を大きく変えずに参加できるだろうということです。

松浦:また、ISSで蓄積した技術を生かすこともできるということですね。

山川:そうです。しかも、「こうのとり」で開発した独自の宇宙機捕獲・ドッキング技術は、日本としてのセールスポイントです。この捕獲技術は地球低軌道だけではなく、月や火星の周回軌道でも、火星に向かう途中の軌道でも、どこでも使えます。その意味で日本は、国際協力に対して非常に大きな貢献ができる可能性を持っています。

 現在JAXAでは、「こうのとり」後継の新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」を開発中で、2021年に初号機を打ち上げ、現状では2024年まで運用する予定になっています。HTV-Xの成果を最大限に利用するという意味では、私はそれ以降もできるだけHTV-Xとその技術を使っていくのがよいと考えています。HTV-Xは、地球低軌道でも使えるし、月近傍までも使えます。それ以外のどこでも使える、汎用的な技術の塊です。

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