松浦:1980年代、JAXA前身の一つである宇宙開発事業団(NASDA)は、大型ロケット「H-II」を開発していました。この当時企画されていた地球観測衛星は、みなH-IIの打ち上げ能力に合わせた、大型で複数のセンサーを相乗りさせていました。後の「みどり」「みどり2」、すこし時期を下ると「だいち」ですね。それぞれ3.5トンから4トンもの大きさがあります。

 当時から、「あまり大きな衛星はシステムが複雑になりすぎるから、失敗の危険が大きくなる」という議論はありました。でも、この意見は通らなかったんです。なぜなら衛星を分割すると、周囲から「なんだ、だったらH-IIのような大きなロケットは不要じゃないか」という声が出てしまうからです。H-IIを開発している以上、NASDAという組織にはH-IIでしか打ち上げられない大型衛星が必要でした。

 それが遠因となって、「みどり」は打ち上げ1年後、「みどり2」は半年で機能喪失事故を起こしてしまいます。教訓を受けて徹底的に設計と管理体制を見直した「だいち」は成功しましたが、その後のJAXAの地球観測衛星は、メインセンサーを絞り込んだ2トン級のものとなります。例えば「だいち」後継機は、レーダー衛星「だいち2号」、光学センサー搭載衛星「ALOS-3」に別れました。

純粋な科学技術「以外」の判断は、当然あるべきもの

山川:私は当時、実際に携わっておりませんので、その話の真偽も含め詳細な論評はできません。ただし、実際のプロジェクトでは、もっと多面的な観点を持って、様々な比較検討がなされた上で、総合的に判断されるものであり、純粋に科学技術だけで決めるのもおかしいと私は思っています。そこには必ず組織的判断が入ってきます。政府の政策的な判断もありますし、今後どうやって予算を効率的に使っていくかというようなJAXAとしての判断もあります。さらには、国際協力計画では、今後の協力関係をどうもっていくかという観点からの判断も入ってきます。こういった判断は、あってしかるべきものと考えます。

 例えば、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに行ったというのは、技術的な判断だけではなくて、そこには今後どうやって太陽系探査を進めていくかという戦略的な判断も入っているわけです。

 実際に私は、「初代はやぶさでもやっている技術をなぜもう1回やるのか、同じ予算でもっと別の事をやるべきではないか」と質問されたことがあります。その答えは「それが政策的判断だからだ」です。「はやぶさ2」を実施するに当たっては、「初代はやぶさ」で獲得した技術を1回で終わらせないで、ちゃんと2回目でもう1回役に立って、なおかつ科学的な成果を出す。そして、1回、2回と実績を示すことで、完全に「はやぶさ2」の小天体探査技術というものを世界標準に持っていくというような戦略的な、あるいは政策的な判断があるわけです。

 ですので、必ずしも科学技術という、その指標だけで全てを決めるというのは、私はやらないほうがいいと思っています。

 JAXAのプロジェクトは、政府のさまざまな指針を満たす必要がありますし、打ち上がって実際に使われる時になってから、どちらがより一線で使われるかというと、やはり政策的な判断にマッチしたほうが使われるのも事実です。技術的な成功確率は当然十分高めておく必要があると同時に、実際に使われるという意味では政策判断というのも極めて重要だと私は思っています。だから、ミッション全体としての成果という意味では、当然ながら政策も考えていく必要があるというのが私の意見です。

松浦:それが成功確率を下げるとしても、でしょうか。

山川:成功確率は相対的に上がる、下がるじゃなくて、ある一定のラインを超えていればいいわけです。ある数字を超えた時点で、ゴーをかけるわけですから。99.8%が99.5%に下がっても、99%以上ならオーケーというような話です。もちろん、そのレベルまで技術が成熟している必要はありますね。破滅的な結果になることは避けなければいけません。

これからの国際協力と有人宇宙活動

松浦:宇宙分野で政策的・戦略的判断がもっとも強く要求されるのは、国際協力の有人宇宙活動でしょう。現状では、2024年で国際宇宙ステーション(ISS)は運用を終えるということになって、どうなるかまだ分かりませんけれども。

山川:先のことは、誰にも分かりません(笑)。

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