全8683文字

(前回から読む

 21世紀が始まった時点では、宇宙開発は国家が行うもので、民間では莫大な投資に耐えられず、しかも投資を回収する見込みもないというのが一般的な見方だった。が、この20年弱で、状況は大きく変化した。日本を含む世界中で民間企業がロケットを開発して打ち上げ、衛星を使ったサービスを展開しようとしている。その中で、国の宇宙開発を担う宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、何をすることで、社会に貢献しようとしているのか。

 そしてもう一つ、民間企業の宇宙開発と利用が進むと、そこには安全保障の問題が浮上してくる。ロケット技術はそのまま大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に使えるし、地球観測衛星の技術は偵察衛星と共通だ。いたずらに国際社会を不安定化させないためには、どうやって民間と国との役割分担をコントロールしていけばいいのか。

 山川宏JAXA理事長に聞く。2回目です。

松浦:地球観測の分野では、民間ベンチャーの伸長が著しいですが、その傾向はロケット、宇宙輸送系になると、はっきりしています。ニュースペース(新興の宇宙産業群)の代表格であるスペースXやブルーオリジンは、従来とは桁が違うほどの速度で技術開発を進めています。

 これを受けて、官民の役割分担も変わってきました。米国防総省はこれまで官主導でロケットをメーカーに作らせるという体制でしたが、次世代ではメーカーの開発したロケットを官が購入するという体制にシフトしようとしています。自動車をメーカーから買うのと同じですね。一方で米航空宇宙局(NASA)は自らの主導で有人探査向け次世代大型ロケット「SLS」を開発していますが、スペースシャトルの技術的遺産を利用するにもかかわらず、計画は遅れ、しかも完成後の使途もまだはっきりしていません。

 日本は今、新ロケットの「H3」を開発しています。H-IIAの頃から「次にJAXAがロケットを開発することはない。メーカーが自分で作ったロケットを、官が買う時代になる」という予想はありました。この先日本の宇宙輸送系の開発と運用はどうあるべきと思いますか。

H3ロケット予想図(画像:JAXA)

日本はなぜロケットを持つ必要があるのか

山川:まず大前提の「日本のロケットというのはなぜ必要か」という話をしましょう。それは「日本政府が宇宙へのアクセスを自律的に行う能力を維持するため」です。これが第一義的な、日本がなぜロケットを、JAXAがなぜロケットを開発しているのかという大きな理由ですね。

 次に、それが産業として持続性を得るためには、何が必要かという問題があります。国がどんなに欲しても、産業として経済的に回らないことにはどうにもなりませんから。H3が開発に入る時に、それを徹底的に考えました。答えは「国際競争力」です。産業として持続性を保つためには国際競争力を持ち、商業市場で確実なシェアを維持し続けることが必須なのです。

 今、開発中のH3ロケット、当時は「新型基幹ロケット」と言っていましたけれども、最初の仕様検討の時点から、民間のメーカーがプライム・コントラクターとして、部品をどこからどうやって調達するかも含め、計画の全体を国際競争力の観点から主導していくやり方にしました。

松浦:具体的には三菱重工業株式会社ですね。

山川:そうです。ただし、そのような中でも、政府は、別の言い方をするとJAXAは、基幹的な技術に関しては中心となって開発を進めていきます。基幹的な技術とは、エンジンや航法誘導制御系などの、それがないとロケットが成り立たない技術です。そこはJAXAが主体となって、確実に開発を進めていくことになりました。

 政府系機関のJAXAが、この基幹的技術を担当する理由は、どんな企業でも長期的に継続する保証はないからです。これから100年、200年、今の形態のロケットが存続するかどうかは分かりませんが、国際競争力を有するためには、国としてしっかりした技術を持っておく必要がある、という考えです。H-IIA/Bまでと、H3との一番の違いは、このような計画を遂行する体制にあります。目指すのは国としての自律性と、国際競争力の両立です。ちなみに、衛星に関しても、次期技術試験衛星ETS-9では、市場シェア獲得などの目標を開発企業と共有して開発を進めています。

松浦:もう一方の要である、全段固体推進剤のイプシロンロケットについては、どのような考え方で開発と運用を行っていくのでしょうか。