2018年4月の山川宏氏の「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」理事長就任は衝撃的だった。
JAXA理事長職はこれまで、産業界で経営を経験した者が務めてきた。初代の山之内秀一郎氏(国鉄/JR東日本出身)、2代目の立川敬二氏(NTTドコモ出身)、3代目の奥村直樹氏(新日本製鐵・現日本製鉄出身)――。組織の運営能力が主の人選であり、宇宙と航空の技術開発と研究への理解は従だったのである。
しかし山川氏は違う。大学で宇宙工学を学び、博士号を取得し、JAXA・宇宙科学研究所で研究者として実績を積み重ねてきた。その間にあまりに有名になった小惑星探査機「はやぶさ」をはじめとした科学衛星や探査機の開発と運用に参加し、水星探査機「みお」では初期のプロジェクト・マネージャーも担当している。京都大学に移ってからは、内閣府の宇宙政策委員会の委員として国の宇宙政策の策定に参加した。そんな宇宙分野のエキスパートが、理事長となったのである。
就任から1年。そのエキスパートは今、何を考え、日本の宇宙分野をどのように発展させようとしているのか。3回に分けてロングインタビューをお送りする。
松浦:以前、宇宙政策委員会委員に就任した時にもお話をお聞きしましたよね。
山川:2012年のことですね。
松浦:その前は京都大学生存圏研究所教授に就任した時に、初代はやぶさの開発過程の話をお聞きしました。山川さんの経歴は文部省・宇宙科学研究所(ISAS)から京都大学生存圏研究所教授、さらに京都大学の間に兼任で内閣官房宇宙開発戦略本部事務局長、そして宇宙政策委員会委員。そしてついに、JAXA理事長。とうとう宇宙開発についてのかじ取りを「評価される」立場になってしまいましたね。JAXA理事長就任の経緯はどんなものだったのでしょうか。
山川:宇宙政策委員会委員になった時、「青天の霹靂」という言葉を使いましたけど、今回も同じです。もちろん詳細な経緯は申し上げることはできませんが、実際にはかなり直近になってからお話をいただきました。すぐに受けると決断し、文部科学大臣から任命いただきました。
ISASから京都大学に移った時は、ロケット開発、衛星開発と、実際の打ち上げや運用については、宇宙研で十分やり切ったという自負と感覚がありました。
松浦:それが2005年9月ですよね。宇宙航空研究開発機構(JAXA)設立が2003年10月だから、ほぼ2年後です。
山川:そうです。全てやりきったから、JAXAをよりよくするためには外から動いたほうがいいだろうという判断が、京都大学に移った理由の一つでした。
松浦:ちょっと勘ぐりを入れさせて下さい。文部科学大臣から任命された、つまり政治としては何か計画的に「JAXAをリードできる人を育てていく」という意志があって、山川さんが眼鏡に適ったというようなことがあったのではないでしょうか。というのも、宇宙開発戦略本部事務局長、そして宇宙政策委員というキャリアは、明らかに「政治と行政を勉強できるポジション」の歴任ですよね。もともと宇宙工学の研究者である山川さんに、さらに政治と行政を勉強してもらって、先々JAXA理事長を務めてもらうというような見通しがあったのかどうか……。というのも川口淳一郎先生も、山川さんの後に、宇宙開発戦略本部事務局長を務めておられます。外から見ていると、将来の理事長候補を何人か選んで、宇宙開発戦略本部事務局長を経験させていたかのように見えるのですけれども。
なにしろ今回は任期が長いです。2018年4月1日から2025年3月31日。最初から7年もの任期が設定されています。
山川:ええ、7年です。ほんと自分もびっくりしました。申しわけないのですが、自分の人事のことは本当に分からないんです。突然やってくるものなので、その背景については知らされないのです。
ただ、もちろん内閣官房の事務局長を務めたことで、官僚の実務を経験したこと、次に有識者として、宇宙政策委員会の委員を経験し、実際に政策を考え、決めていくプロセスを知ったということは、今回の私の人事に大きな影響を与えているとは思います。その上で、なおかつ大学の教授としてアカデミーを経験し、その前はJAXAにおいて実際の宇宙機関で仕事をしていたわけですから、そういったいろいろな面から宇宙というものを、技術だけじゃなくて、政策の立場からも経験しているということは、私にとっては非常に大きなプラスになっています。
ですから、そういった私の経歴に期待されているのではないかと、自分では認識しています。とはいえ直接的に背景や経緯を知らされているわけではありません。あくまで、自分の推測ですね。
「本当に役に立つ」とは、どのようなことか
松浦:では、宇宙工学から政治、行政に至るまでを経験した立場から見て、今のJAXAにとって一番大きな課題というのは何であるとお考えですか。それは、おそらく宇宙政策委員の時から、ずっと感じていたことではないかと思います。
山川:2つの課題があります。まず、一つめは、JAXAという組織の成果が、本当に生活に根付いていく、社会に根付いていく方向になっているか、です。
JAXAの大きな役割に研究開発があります。ですから、この問題は、JAXA(の研究開発)が、本当の意味で挑戦し続ける組織になっているのかということでもあります。
松浦:事例を挙げてご説明いただけますか。
山川:例えば、これまでも国際宇宙ステーション(ISS)の費用対効果の問題は、何度も申し上げています。私としては、税金を使ったプロジェクトがちゃんと本当に役に立っているのかというところを強く意識しています。
JAXAは平成24(2012)年のJAXA法の改正に伴い、「政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関」と定義されています。ということは実際にそのように行動して成果を出す必要があります。ですから、本当に政府全体を考えて行動をしているのかというところが非常に大きなポイントだと認識しています。
宇宙機関にしかできないことがあると思います。それは何かというと、宇宙との関わりの中で発生するいろいろな課題の解決です。グローバルな課題の解決、あるいはローカルであっても社会に直結する課題の解決です。
具体的に例を挙げると、地球温暖化に関するデータ収集の技術開発は、グローバルな課題解決でしょう。あるいは、宇宙からの災害監視や初動対応はローカルだが社会に直結する課題解決です。災害対応では、宇宙からのデータが実際に使われるケースは数年前と比べると飛躍的に増えているのですが、今後これらのデータはもっと使われていくべきと考えています。これは日本だけの問題ではなくて、世界全体の課題だと思っています。
国際的なルール作りと、安全保障問題
山川:二つめの課題は、政府の宇宙機関として、宇宙機関でしかできないことは何かということです。最初の問題が地球上での課題だとすれば、二つめの問題は宇宙空間での課題を解決する。つまり、宇宙空間における国際的ルール作りです。
最近、宇宙空間での民間の活動は活発化しています。スペース・デブリの除去ですとか、あるいは宇宙機への推進剤補給とか、宇宙資源のビジネス利用という話題も、現実のものとなってきています。国際的な条約の観点あるいは法律の観点から、どこまで、どういうことが許されるのかという国際的ルールを明確にしておかないと、ビジネス自体が成り立ちません。宇宙におけるルール作りは、直接的には各国政府間で議論されるべきものです。宇宙機関は、そのために必要な技術的なアドバイスを政府に提供するという役割を持ちます。
ルール作りという意味ではもう一つ、安全保障という大命題があります。
宇宙空間を平和的に利用するためにはどういうルール作りが必要かを考えるにあたっては、軌道上活動を安全保障上、きちんと定義しなくてはいけません。技術的に現在、そして近い将来に、宇宙空間をどのように使う可能性があるのかが分からないと、このような定義はできません。この作業ができるのは宇宙機関だけだと思います。
まとめると、「宇宙を使った地上の社会的課題の解決」と、「宇宙空間における国際的ルール作り」――これらが世界中の宇宙機関がもっと積極的に取り組んでいかなければいけない課題だと思っています。JAXAも技術的に、この2つに貢献していきたいと考えています。そしてJAXAとしては、この2つのために挑戦的で先導的な研究開発を実施して、世界をリードしていかなくてはなりません。
2018年4月、つまり私の理事長就任と同時に、JAXAの第4期中長期計画が始まりました(注:「国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の中長期目標を達成するための計画(中長期計画)(平成30年4月1日~令和7年3月31日)」を参照)。これが2024年度末まででして、ちょうど私の任期と重なるのですが。
松浦:つまり、この中長期計画を遂行せよ、ということですね。
山川:この中に、4つの目標が定めてあります。一つめが「安全保障の確保及び安全・安心な社会の実現」です。2番目が「宇宙利用拡大と産業振興」、以下「宇宙科学・探査分野における世界最高水準の成果創出及び国際的プレゼンスの維持・向上」、「航空産業の振興・国際競争力強化」と続きます。
これはつまり、さきほどお話しした2つの大きな方向性、「宇宙を使った地上の社会的課題の解決」と、「宇宙空間における国際的ルール作り」を具体的なアクションに落とし込んでいくと、この4つの目標になるということなのです。宇宙分野に限ると、最初の3つの目標ということですね。
松浦:しかし「役に立つ」という事は、本質的にその時になってみないと分からないものですよね。
「役に立つ」ことを、どう捉えるか
松浦:最先端の科学というものは、極端なことを言えば自分が生きている間に社会の役に立つかどうかすら分からないものです。典型的な例が、下村脩先生がノーベル化学賞を受賞した「オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の研究」です。なぜクラゲは光るのだろうという好奇心から始まって、本当に手元の資金だけで研究を続けて、解明して、それから半世紀たってみれば、今や遺伝子工学のために必須の技術になっている。サイエンス、あるいはテクノロジーもそうですけれども、実はそういう性格がありますよね。
ところが、特に政府、政治の要求する「役に立つ」というのは実はそんなに長い視点には立っていません。このような「役に立つ・立たない」の区分を、ショートスパン、ロングスパンの視座の中でどういうふうに切り分けていこうと考えていますか。
山川:私ももともとは研究者ですから、その瞬間には好奇心で始まっているものがすぐに役に立つかどうかも分からないし、役に立った事例のほうがはるかに少ないということは理解しています。
ただ、そうはいいながら、今ある技術、あるいは今ある宇宙インフラを使って、すぐに役に立てるサービス、あるいはデータを提供するということはあると思います。それがあるのにやらないというのは、むしろよくないことだと私は思っています。だから、「今役立たせることができるものは、すぐに役立たせよう」と考えています。これは数カ月から数年のスパンになります。まず、これがショートスパンの視座です。
ロングスパンの視座としては、より基礎的な分野です。技術開発をしても、最終的に我々の生活で役に立つのはもしかしたら50年後かもしれないというようなものです。さらに、宇宙科学の宇宙の起源の解明や太陽系の初期の解明となると、直接的に我々の生活に役に立つかどうかすらも分かりません。けれども、それは人類の知的好奇心という観点からは必須の事業です。
宇宙という分野には、タイムスパンが直近のものから、50年と言わず100年、あるいはもっと長いものまでもが混在しているわけですね。
JAXAという組織はその全てを扱っています。ですから、宇宙というものが本当に実利、利用の観点、あるいは安全保障の観点、科学の観点、産業の観点、いろいろな面を持っている多面体なわけです。それをどこから見るかによって、その答えは変わってくるけれども、それ全体を包含している組織なので、全ての面を考えなくてはいけない。そこは一番難しい点だと思っています。
松浦:そうすると、立場としてはむしろ短期に傾きがちなものを、いかに超長期まで見通しよくやるか、ということになるのでしょうか。内閣を中心とした新体制は、それまでの「宇宙開発」という言葉を「宇宙開発利用」と言い換えて、宇宙利用を積極的に推進するという方向性を打ち出していますが、この場合、逆に長期的なタイムスパンで考えるべき宇宙科学や技術開発が、おろそかになるという可能性はないでしょうか。JAXAは長期、超長期のものへのまなざしを、どう持つべきとお考えですか。
山川:さきほど申し上げた通り、両方です。私の役割としては、どっちかだけに傾いていてもいけません。
ですので、短期的なものに偏りがちなものを、長期的にするということでもないと思います。一方向から見たときにはそう見えるかもしれませんが、逆に宇宙というものがこれまで科学技術という側面に非常に重点を置かれていたので、実際には短期的に利用されるべきだという考え方もあります。災害対応は今やらなければならないことですし、同時に宇宙科学で宇宙や太陽系の起源を解明するのも長期的な視点でやらねばならないのです。
政府と民間、役割はどうあることが望ましい?
松浦:具体的な各分野に入っていきましょう。
地球観測分野は、短期・長期のどちらに区分されると考えていますか。この分野は両方あるように思うのですが。ここにきて観測データの無償提供が始まっています。
山川:地球観測データのオープン&フリー化という話は、短期でも長期でもなくて、中期的な事業だと考えています。ちなみにオープン&フリーというのは全てオープンにするという意味ではなくて、一部クローズにし、クローズとオープンの境目をはっきりさせた上で、できるだけオープンにしていくということです。実際に生活に根付くためには結局データを本当に使ってくれる人をより一層増やしていく必要があります。
ご存じの通り、「地球観測データのユーザーを増やさないと」という議論は、宇宙関係者の間では、もう20年以上やってきているわけです。今の動きはそのことを宇宙関係者の内々ではなく、政府がはっきり明言して進めるというところが新しいのです。
松浦:地球観測分野では、米ベンチャーも急速に動いています。特に、米プラネット・ラボは3kgの超小型衛星を100機以上打ち上げて運用し、「プラネットエクスプローラー」というホームページで公開して、データを販売しています。試用登録して見てみたら、自分の家のある地域がだいたい3日に1遍ぐらいの頻度で、それも分解能3mぐらいの精度で撮影されているので、本当にたまげたんですけれども、もうそういう状況になっている。
山川:そうですね。
松浦:非常に動きが速いですよね。政府系地球観測衛星のデータ公開で、それに対抗するのか。あるいは、日本でも民間の例えばアクセルスペースのようなベンチャーを育てるつもりなのか。この先の戦略をどう考えていますか。
山川:JAXAでいうと、今一番使われているのがレーダー衛星の「だいち2号」(ALOS-2)の観測データです。それは災害だけではなく、森林のモニタリングとか、さまざまなところで使われています。あるいは気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)といった環境観測を行う衛星のデータは、気象庁をはじめとした様々な政府機関ですでに利用されています。まず、今現在、JAXAの衛星データが、すでにこのように多岐の分野に渡って使われている、ということです。「衛星データが社会に根付く」ということは、そんな利用の状況を、さらに押し広げていくということなのです。
松浦:JAXA衛星と民間の衛星ビジネスとの差は何にあるのでしょうか。民間ができることなら、官はやるべきではないという議論も成立します。
官の最大の貢献は「継続性」
山川:一番の違いは継続性です。今後の状況変化はあるでしょうけれども、JAXAの衛星は継続性を重視しています。発災後のみならず、災害時にもすぐ活用できる発災前のベースデータを継続して撮影し続けています。そこは、採算性重視で撤退があり得る民間のビジネスとは一線を画すると考えます。
一方で、JAXAとして、そういった民間の活動を盛り上げていこうという意志を強力に持っています。ですので、アクセルスペースのような民間ベンチャーが盛り上がるのは非常に良いことです。
松浦:例えば観測波長や周波数、目的などで官の衛星のメリットを出して民間とすみ分けようというお考えでしょうか。民間の衛星は、プラネット・ラボも、あるいは最大手のデジタル・グローブも、データとして一番需要が大きい可視光で高分解能の観測データを得るように衛星を設計しています。対して、例えばJAXA衛星「しきさい」「しずく」もそうですけど、もう少し違った、むしろ地球環境に関する全地球的な観測を実施するものが多いですね。
山川:そういう考えもあります。JAXA衛星である「しきさい」も「しずく」も、なかなか民間事業者が手を出せない環境観測を行っています。もう一つの流れである「だいち2号」は、雲を通して観測できるレーダー衛星で、一度に広い範囲を、ほどほどの分解能で観測します。これは災害監視を狙った設計で、地方自治体への情報提供を行うという意図があります。この両分野は、官が情報を提供するべきでしょう。災害監視系の衛星はこの先、光学観測で広い範囲をカバーするALOS-3、だいち2号の後継機のALOS-4と継続的に打ち上げる計画になっています。
目的によって衛星の設計や運用は、違ってくるわけですよね。ALOSシリーズは、1機で広い範囲をほどほどの分解能で観測し、災害時の状況把握を素早く行う設計です。対して、プラネット・ラボの衛星は高分解能で、1機の衛星の撮影できる範囲は小さいですが、多くの衛星を同時運用することで観測の間隔を縮めようとしているわけです。それはプラネット・ラボが売り上げを立てるために、お客さんのどのあたりのニーズを満たそうとしているかで決まっているわけです。アクセルスペースの超小型地球観測衛星「GRUS(グルース)」も同じですよね。
松浦:環境監視を行う衛星は棲み分けができるとして、では災害監視を行うALOS系も衛星の目的に応じた設計によって、やはり棲み分けが成立するということでしょうか。
山川:官民の棲み分けもさりながら、お互いの相乗効果により、衛星観測データの利用が拡大すればいいということです。衛星観測データを何に使うかは、顧客の自由です。ですから、プラネット・ラボやアクセルスペースの顧客が災害監視に彼らの衛星のデータを使っても、全然構わないわけです。
「予想もつかなかった使い方」が現れるために
山川:分かりやすい事例でいうと、JAXAのGCOMシリーズは海水温の分布も観測しているので、漁業に直結しています。現状ですでに、日本のかなりの数の漁船がそのデータを直接的に使っています。GCOMのデータを使うと漁場に直行できるので、漁船の燃料を約16%節約できるそうです。この漁船での利用事例は、以前に内閣府 宇宙開発利用大賞において内閣総理大臣賞を獲得しました。現在は、もっと効率が向上しているかもしれません。
このような、当初の意図からは、予想もしなかった使い方というのが生じ、宇宙からの地球観測データが地上の経済に役に立つ、というのが望ましいあり方です。私は、まだまだ未開拓の、様々な使い方があると思っています。
松浦:地球観測データは、生データのままでは十分に生かすことができないという特徴を持ちます。分析しないと必要な情報が出てこない上に、そこに独特の分析ノウハウが必須です。民間が持つ分析ノウハウが薄い、ということが、地球観測データ利用が進まない大きな理由です。このことは、1980年代からずっと言われ続けています。利用促進には、分析ノウハウの一般化が必要ではないですか。
山川:まさにその通りで、だからこそ今、政府としては、データだけではなくデータ解析ソフトウエアも含めてオープン&フリーを進めようとしているわけです。例えばレーダー衛星の観測データというのは、特に生データのままでは分かりづらいので、解析ツールとその使いこなしが必須です。そういった全体の環境を含めて、普及と利用を促進していこうとしています。
(続きます)
JAXAの地球観測衛星について
現在、JAXAの地球観測衛星は、地球環境観測を行う気候変動観測衛星シリーズ(GCOM:Global Change Observation Mission)、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT:Greenhouse gases Observing SATellite)シリーズ、大規模災害時の緊急観測を行う陸域観測技術衛星(ALOS:Advanced Land Observation Satellite)シリーズとシリーズ化されている。
そのほかに新たな衛星技術を開発する超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)も、ミッション機器として地球観測センサーを搭載している。また、国際協力による全地球的な衛星による降雨観測計画「全球降水観測計画」(GPM)にも参加し、衛星搭載センサーや衛星打ち上げなどを担当している。
これらJAXA衛星とは別に、内閣官房衛星情報センターが、安全保障目的で情報収集衛星(IGS:Information Gathering Satellite)を運用している。IGSは取得データを基本的に公開していないが、防災目的の情報収集も利用目的に入っており、大規模災害時には一部取得データの公開も行っている。
JAXAの地球観測衛星(画像は共にJAXA)。ALOSシリーズの合成開口レーダー衛星「だいち2号(ALOS-2)」(上)と、GCOMシリーズの水循環変動観測衛星「しずく(GCOM-W)」(下)
観測センサーの技術面から見ると、地球観測変動衛星の搭載するセンサーは、赤外線から可視光にかけての光を利用して画像を取得する光学センサーと、レーダーを使って地表に電波を照射して反射波を受信し、取得データを干渉処理して画像を得る合成開口レーダーというセンサーの2種類に大別される。
合成開口レーダーは雲が出ていても地表面の観測が可能で、使用する電波の周波数によっては樹木を透過した地表面の状態や、さらには地下の状況なども観測できるという特徴を持つ。ALOSとIGSは、それぞれ光学センサーを搭載した光学衛星と、合成開口レーダーを搭載したレーダー衛星の2系列を持つ。
一方、世界では米DigitalGlobeや欧州Airbus Defence & Spaceなどが、冷戦期に培った偵察衛星の技術に基づく高分解能の地球観測衛星を運用し、民生市場に分解能数十cmという高解像度地球観測データを供給している。これに対し、21世紀に入ってから起業したベンチャー企業(「ニュースペース」と呼ばれる)の中からは、より小型の数kg~100kg程度の小型の衛星を多数打ち上げて、分解能1m~数mで地表面を高頻度に観測し、「高頻度観測による時間分解能の高い衛星観測データ」を販売する企業が出始めている。その先頭を走っているのが、米プラネット・ラボである。日本でもベンチャーのアクセルスペースが、数十機規模の地球衛星観測群「アクセルグローブ」の構築に向けて動いている。
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