2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始してから数日後、ロシアのシベリア地方で教師をしているアンドレイ・シェスタコフさん(38)は、メッセージアプリ「ワッツアップ」の歴史教師が集うグループのチャットで、あるファイルを開いた。

ロシアがウクライナ侵攻を開始してから数日後、ロシアのシベリア地方で教師をしているアンドレイ・シェスタコフさん(38)は、メッセージアプリ「ワッツアップ」の歴史教師が集うグループのチャットで、あるファイルを開いた。写真はシェスタコフさんー。本人提供(2022年 ロイター)
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから数日後、ロシアのシベリア地方で教師をしているアンドレイ・シェスタコフさん(38)は、メッセージアプリ「ワッツアップ」の歴史教師が集うグループのチャットで、あるファイルを開いた。写真はシェスタコフさんー。本人提供(2022年 ロイター)

 ファイルに収められていたのは、数十ページの文章やプレゼンテーション資料のほか動画へのリンクで、今回の紛争について10代の生徒たちにどう教えるべきか指示する内容だった。誰がチャット上でこのファイルを共有したのかは不明だったが、文書の多くには、モスクワにあるロシア教育省の徽章が付いていた。

 資料には「ウクライナで戦っているロシア兵は英雄である」、「ウクライナの支配者は第二次世界大戦当時のナチス協力者と共通の目的を掲げている」、「西側諸国はロシア社会に分断を広げようとしている」、「ロシア国民は団結しなければならない」などと主張する指導要領が含まれてた。

 引き締まった体格のシェスタコフさんは、1月に教師になる前は警察官として16年間働いたという。だがここ数年は、ロシアの支配層がその建前である民主主義的な価値観に忠実かどうか、疑問が湧いてきたという。政権批判で有名なアレクセイ・ナワリヌイ氏の影響もあった。

 モスクワから東に約6700キロ離れたシベリア東部の炭鉱都市ネリュングリの第2中学校で教えるシェスタコフさんは、自分の生徒たちにはこの内容を教えないことに決めた。

 代わりに、この指導要領がどういう内容か、そしてそれが歴史的になぜ間違っているのかを生徒たちに話したと言う。例えば、この資料ではウクライナはソ連共産党の前身であるボルシェビキが建設したと主張しているが、歴史の教科書はウクライナの歴史が何世紀も前にさかのぼることを教えている。

 シェスタコフさんはさらに踏み込んだ。3月1日、彼は授業で、ロシア軍への志願は勧められないこと、ウクライナとの戦争には反対で、ロシアの指導者はウクライナのファシズムと戦っていると主張する一方で自らファシズムの兆候を示していることを生徒たちに語った。ロイターは、シェスタコフさんが署名した警察の調書を閲覧し、これらの発言を確認した。

 教室での発言に関する3月5日付けの調書によれば、その後数日間、シェスタコフさんは地元警察とロシア連邦保安庁(FSB)に呼び出されて尋問を受けた。これらの発言については起訴されなかったとシェスタコフさんは言う。FSBと現地警察にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

 3月18日、裁判所はシェスタコフさんに、ロシア軍の信用を損なったとして3万5000ルーブル(約5万5000円)の罰金を科した。ロイターが閲覧した判決によれば、これはウクライナで捕虜になったロシア兵のインタビュー動画をオンラインに転載したことに対するものだった。

 シェスタコフさんはロイターの取材に対し、戦争に公然と反対した以上いずれ解雇されるだろうと考え、先月で教師を辞めたと話した。シェスタコフさんの件と指導要領について、現地の教育当局とロシア教育省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。ロイターが学校に電話で連絡を取ってみたところ、校長代理を名乗る女性が出て、シェスタコフさんの件についてはコメントを控えると言って電話を切った。

 これと同一の、あるいは類似の指導要領をロシア全土の教師が受け取っていることが、教員組合の幹部2人や教師2人、そしてこのプログラムを使って授業を行ったと報告している2つの学校によるソーシャルメディア投稿から明らかになっている。主流メディアに対する統制を強化しているロシア国家が、ウクライナでの戦争に関するプロパガンダを教育現場にまで広げて政権への支持率向上を図っていることを示すものだ。

 開戦以来、ロシア国内では多くの学校が、生徒たちがウクライナで戦う兵士たちを応援するメッセージを送っている様子や、ロシア国内で戦争支持のシンボルとなっている「Z」を人文字で表現している画像をソーシャルメディアに投稿している。

 戦争に反対する教師たちは、反体制活動家や非政府組織の活動家、独立系ジャーナリストと並んで、罰金や訴追、失職の可能性といった形でロシア国家からの圧力を感じる状況に陥りつつある。プーチン大統領は3月初め、ロシア軍に関する「フェイク」情報の拡散を犯罪とし、罰金または最長15年の禁錮刑を科す法案に署名した。

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