起業家の金融リスク

 多くの新興企業はブランド力や豊富な独自資金などがない状態で立ち上がるので、どうしても金融機関のほうが「優越的な地位」にはなりがちだ。経産省の指針では投資契約を結ぶとき、起業家にとって「不利な条項が少ない形で締結することが重要」と指摘した。そもそも不利なことが複数あるという前提なのだが、できるだけ抑制することを目指している。特に、起業家が個人として抱えるリスクの大きさが課題という。

 例えば、ミドリムシからバイオ燃料や健康食品を作っているユーグレナ。出雲充社長に創業時の話を聞くと「オフィスに置くコピー機のリースでさえ、私の個人保証だった」と振り返る。ただ、こうしたリース債務や借入金のような明らかな負債だけが責任の対象となるのではない。出雲氏は「エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)も、日本のスタートアップ資金調達だと真のエクイティとは言えない」と苦言を呈する。

ユーグレナの出雲社長は、スタートアップにとってエクイティファイナンスも厳しい条件が付いていると語る
ユーグレナの出雲社長は、スタートアップにとってエクイティファイナンスも厳しい条件が付いていると語る

 業績が悪くなったりVCにとって不都合が生じたりした場合、スタートアップ側が株式を買い戻すように求められるからだ。創業から間もない会社は、最悪の場合に売却して現金化できる設備が少なく、累積赤字が拡大している場合もある。実質的に起業家の個人保証となっており、第三者割当増資や株主割当増資であっても、エクイティのはずがデットファイナンス(借り入れ)に近い性格といえる。

 公正取引委員会と経産省はこれを問題視している。経営状態が良好でも、出資者が「起業家への買い取り請求権」をちらつかせて搾取することもあるという。例えばある企業は出資者と定めた計画どおりに事業を進めていたが、知的財産権を出資者に無償譲渡するよう求められた。これに応じなければ、出資者から企業側が株式を買い戻すよう迫られる状況だったため、やむなく知財を譲渡した。ここまでくると独占禁止法上の「優越的地位の濫用(らんよう)」に当たるおそれがあるというが、他にも不透明な理由で買い取り請求権が行使される例は散見されるという。

 VCなどからスタートアップが出資を受けるとき「もし将来の契約違反があれば、その時に損害賠償請求すれば十分ではないか」と交渉することもできる。ただ、何らかの経営判断と業績の因果関係を立証し、損害額を算定するのは手間がかかる。このためVCが手っ取り早く起業家の行動をコントロールする手段として、買い取り請求権を設定しておくことが多いという。創業期の企業だと法務チームがなく、「弁護士等の専門家に相談する余裕もない状況で契約する」(経団連の分析)という状況も課題だ。

 スタートアップでは起業家が過半の株式を保有した状態で、取締役会で大きな影響を及ぼすことも多い。ただ、起業家とその会社を一体とみなして連帯責任を求める出資契約の条項については、「グローバルな観点からはあまり例が無い」(公取委と経産省の指針)。過度に責任を求めると起業を増やせないため、VCなどによる買い取り請求権の対象は会社そのものに限定し、経営者個人には設定しないよう求めている。

次ページ 大企業も課題