空港や美容院にも

 波紋は大きく広がっている。西側の制裁によって旅行が途絶えたため、モスクワのシェレメチエボ空港は先月、スタッフの2割を一時帰休とした。

 ロシアのサービスセクターは3月、約2年ぶりの急激な縮小ぶりを示し、就業者数は2020年6月以来最も大幅に減少した。

 世界銀行は、全体で260万人が今年、ロシアの公式な貧困ラインを下回る可能性があると推計している。

 モスクワ近辺で美容師をしているアレフティナさん(25)は、3月は常連客の1割以上から予約が入らなかったと語る。このため、平均10万ルーブルだった月収が1万5000ルーブル(185ドル、約2万3000円)削られてしまった。

 「私のお客さんは毎月減っていくのだろう。仕事がなくなったから美容代を節約している、という不満を耳にする」という。

 ロイター調査によると、ロシアの対外収支黒字は今年、エネルギー収入を支えに2330億ドルと、前年の約2倍に膨らむ見通しだ。このため当局は失業給付の支払いを維持できるかもしれない。

 しかしオックスフォード・エコノミクスのオルロバ氏は、ロシア経済は1998年や2008年よりも深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想。しかも、例えば制裁によってロシア企業が投資に必要な外国の技術や設備にアクセスできなくなるなど、長期的な影響も伴いそうだという。

 オルロバ氏のモデルでは、ロシアは生産性も貿易相手諸国に比べて低下する見通しとなっている。

 その一因は、ロシアで有望視されていたITセクターが打撃を被りそうなことだ。ハイヤー・スクール・オブ・エコノミクスによると、ロシアのITセクターは2019年までの6年間に経済価値が倍増し、同年末時点で国内総生産(GDP)の1.2%を占めていた。

 しかしウクライナ侵攻以来、10万人を超えるIT専門家がロシアを脱出したとロシア電子通信協会は推計している。

 コロナ禍中に西側諸国の失業率が2桁台に上昇する一方で、ロシアの失業率が6.5%を超えなかったのには、同国特有の要因もある。国営企業がしばしば人員解雇よりも賃金カットを選ぶことが、その1つだ。

 もう1つの要因として、高齢化が進んでいるため、非熟練労働を中心に人手不足の穴埋めを近隣諸国からの出稼ぎ労働者に頼る傾向が強まっているという事情がある。世界銀行によると、ロシアでは65歳以上の人口の割合が世界平均の9%の2倍程度に上る。

 つまりロシアで雇用が失われると、旧ソ連諸国に影響が広がり始めるだろう。

 キルギス民族離散会議(モスクワ)の代表、クバニチベク・オスマナリエフ氏は「どこもかしこも人員削減で、ルーブルは下落し、給料を支払われていない人々もいる」と嘆く。

 「(ロシアの)キルギス人は途方に暮れている。帰国して状況が良くなるのを待てば良い?母国にも職が無いのは周知の事実だ」とやるせなさを口にした。

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