ウクライナ危機で争奪戦の様相をみせる液化天然ガス(LNG)などの燃料調達。脱炭素化による化石燃料関連資産への投資抑制が事態を悪化させている。日本は燃料の調達難に加え、今冬には再び電力の需給が逼迫する恐れがある。足元では燃料や火力発電所の確保が急務となっており、企業は難しい対応を迫られている。

 世界に約600隻ある液化天然ガス船の運航状況をリアルタイムで表示する船舶用トラッキングシステム。モニター上には、船の位置を示すオレンジ色の無数の点がLNGの一大産地、米メキシコ湾から大西洋を横断し欧州に向かっているのが見える。以前は多くの船がアジアに向かっていたが3月以降、行き先は変わった。天然ガスのロシア依存脱却を急ぐ欧州連合(EU)各国がLNGをかき集めているためだ。

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 2022年にEUが新規調達を見込むLNGは世界全体の貿易量の約1割に上る。日本エネルギー経済研究所の橋本裕研究主幹は「相当なインパクト。LNG市場全体に重大な影響をもたらす」と指摘する。価格高騰を受け、アジアの一部の国では入手しづらくなっており、争奪戦の様相を呈する。

「ロシアなき世界」を前提にしたエネルギー戦略が必要

 中国に次ぐLNG消費国である日本も油断できない。日本の総合商社や電力・ガス会社が関与し、日本のLNG消費の約8%を担うロシアの天然ガス事業「サハリン2」からずっと供給を受けられる保証はないからだ。

 岸田文雄首相は4月8日、日本が輸入調達する石炭の約14%を占めるロシア産の輸入を段階的に廃止すると発表した。経済産業省資源エネルギー庁の西田光宏戦略企画室長は「世界のエネルギーの情勢がウクライナ危機以前に戻ることはない」と話し、「ロシアなき世界」も念頭に置いた日本のエネルギー戦略の必要性を説く。

2018年にオーストラリアで生産開始したINPEXのLNG開発事業「イクシス」。日本へLNGを送るため、昼夜を問わず稼働し続ける
2018年にオーストラリアで生産開始したINPEXのLNG開発事業「イクシス」。日本へLNGを送るため、昼夜を問わず稼働し続ける

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