一度、DXから離れて、自分の会社の存在意義を議論するようなところから始める必要があるということですね。

入山:日本の大企業や中堅・中小企業は、意外と会社の根本的な方向性や存在意義といったことを、みんなで腹を割って話す機会が少ないように感じます。グローバル企業やベンチャー企業は、みんなこの議論をやっています。役員や執行役員と一緒になって、合宿に行くのもいいでしょう。ぜひ議論していただきたいと思います。

ビジョンを腹落ちさせるのがリーダーの役目

経営者次第で、ピンチにもチャンスにもなる時代。これからは、どのようなリーダーが求められるのでしょうか。その要件は今までとは違いますか。

入山:基本的には、望まれるリーダーの方向性は変わらないと考えています。ただ、コロナ前よりも重要性は増していますし、より先鋭化しています。

 これからの時代は、さらに不確実性が高くなる。不確実性が高いときには、正解がないんです。これはとても重要なことです。正解はないけれども、意思決定はしなければならない。経営者は悩みますよね。悩んで悩んで最後に腹をくくったらこっちだ、と決める。決めたら社員にビジョンを伝えて腹落ちさせてやり抜く。リーダーの役目は、これに尽きると思います。

 ところが、意外なほどこれができていない。日本の大手企業の最大の悩みが、経営者候補がいないことです。大手企業に所属していると、答えのある仕事をずっとやらされるので、何も分からない状態で決めるという経験を積んでいないんですね。それを40代、50代で役員になって、急に「腹をくくって意思決定してください」と言われても無理ですよね。

企業は意思決定できる人材を育てなければならない。そのためには、やはり場数を踏むしかないのでしょうか。

入山:最も重要なのは場数だと思います。意思決定は積み重ねるしかないんですよね。それ以外の方法では、絶対にできるようにならない。

 ある程度の情報のインプットがなければ意思決定はできないので、ビジネススクールなどでの学びを経験することもいい。そして、意思決定を積み重ねてきた経営者に話を聞くことも有用です。その人たちの気迫や考え方、意思決定の際に何を大事にしているかを知る。あとは場数を踏んでいただきたいですね。

入山先生は多くの経営者にお会いしています。最近注目されている経営者はどんな方でしょうか。

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