DXは目的ではなく手段

厳しい時代を勝ち抜くための一つのツールが「DX」だと思います。日本企業がDXを進めるにあたっての課題については、どのようにお考えでしょうか。

入山:私はセミナーで「DXにおいて、現場で何が起きているのか」という話をしたばかりです。個人的に最大のポイントだと考えているのが、「DXは手段」だということです。今の日本企業では「DX」という言葉だけが先行しているために、DXが目的になってしまっている。他の会社がやっているから、ブームだから、うちもDXやらなきゃ、と。これはアウトです。

 DXは目的ではなく、あくまでも「手段」です。会社の目的は、社会に貢献して価値を出し、売り上げを上げて、そのお金で従業員や株主などのステークホルダーに還元することですよね。そうすると、重要なのは、「そもそもこの会社は何がしたいのか」という方向性であり、存在意義であり、戦略です。それに対して、今足りていない部分にデジタルを導入しよう、と進めていくのが正しい順番です。

 そもそもの本質的な議論が弱いままデジタル化だけ進めようとしても、絶対にうまくいきません。

ワークマンは「しない経営」が戦略

日本企業でDXがうまくいっている事例はありますか。

入山:例えば、今非常に注目されているワークマンは、デジタル経営で有名ですが、実は全社員に米マイクロソフトの表計算ソフト「エクセル」を使わせています。

 これは別に、日本の全部の会社にマネをしろと言っているわけではありません。ワークマンが最も重要視しているのは、デジタル化ではなく企業文化です。そのため、「しない経営」という、「がんばらない」「残業しない」「経営者はいろいろ口出ししない」という経営戦略をとっています。

 もともとワークマンは会社や店舗の標準化が進んでおり、どの店舗でも比較的同じ商品を販売し、管理方法も同じ。そこに小難しいコンピューターサイエンスを入れるよりも、現場の人でも扱いやすいエクセルを使えるようになって、そこからデータさえ出てくれば、現状がすべて把握できるわけです。

 大事なことは現場で起きているから、現場にどんどん権限委譲して、現場の人がエクセル経営をして決めていくという企業文化をつくろうとしているんです。

 このように、それぞれの会社に合ったデジタル化を進めることが重要です。目的もなく、ただブームに乗ってAI(人工知能)だDXだとやっていると、ただ高い費用だけ払って何も生まれない、ということになりかねません。

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