企業を襲ったコロナ禍という未曽有のショック。ただ、この危機を将来に向けた改革のきっかけとできるか否かで、今後の成長力には大きな差がつく。

 「コロナ禍は、企業にとって、ピンチでありチャンスでもある」と話す早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は、「ダイバーシティーだけ」「DX(デジタルトランスフォーメーション)だけ」といった具合に、経営要素の一部を変えようとしても失敗することが多いと指摘する。

 危機をきっかけに、評価制度から働き方、DXまで、相互に関連し合っている要素をまとめて見直す。その際は、会社の根本的な方向性や存在意義といったことを、みんなで腹を割って話し合ってみる――。こうした取り組みができる企業には、コロナ禍後に大きなチャンスが訪れると話す。

(聞き手は、日経ビジネス編集委員 谷口徹也)

コロナ禍により、変化のスピードが加速しています。ただ、今回の変化は、これまでの変化とは違う側面もあるように感じますが、いかがでしょうか。

早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授

入山章栄(以下、入山):例えば今、経済誌はこぞって「EV(電気自動車)」の特集を組んでいますよね。5年前であれば、「EVって何のことですか」と読者はまだピンとこなかったはずです。排ガス規制、CO2の削減という流れや、米テスラの台頭があり、自動車業界は今、ガラっと変わっているんですよね。このような大きな変化が、あらゆる業界で一気に押し寄せているのが、今の状態です。

1つだけ変えようとするから失敗する

その変化の中で、非常に苦労している会社もあれば、チャンスをつかんでいる会社もある。コロナ禍というのは、危機なのかチャンスなのか、入山先生はどのようにお考えでしょうか。

入山:まさに、コロナ禍はピンチでありチャンスです。残念な事態ではあるものの、チャンスも大きいと私は考えています。

 コロナ禍になって、経営学や経済学で使われる「経路依存性」についてよく話しています。企業にはさまざまな要素が存在しており、それらが相互につながり、うまくかみ合っているから合理的に回っているわけです。ところが、裏を返すと、どれか一つを「時代に合わないから」と変えようとしても、かみ合ってしまっているから簡単には変えられない。これを「経路依存性」と言います。

 例えば、私がコロナ禍の前から例に挙げて説明しているのが、「ダイバーシティー経営」です。コロナ以前から重要だといわれているわけですが、日本企業では全然進んでいない。その原因は、ダイバーシティーだけに取り組もうとするからなんです。ダイバーシティー以外のさまざまな仕組みが、真逆の方向でうまくかみ合ったままなので、それらを全部変えなければ、ダイバーシティーは実現できないんです。

 多様な人材を増やしたいのであれば、新卒一括採用をしていては難しいでしょう。また、多様な社員を一律に評価できるはずはありませんので、評価制度も多様化する必要があります。さらにいうと、働き方にも多様性が求められます。これらが以前の仕組みのままなのに、ダイバーシティーだけを進めても、うまくいきません。

コロナ禍でブームとなっている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」も、似たような落とし穴にはまっている企業が多そうです。

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