雇用維持の“ドイツモデル”を欧州全体に拡大

 3月31日に独連邦雇用庁が行った発表によれば、2020年2月時点では1900社程度であった時短勤務手当の申請企業数は、承認前ではあるが、3月27日時点で47万社にまで急増した。これは、労働者数では、約880万人に相当すると推計される。3月の失業者数(230万人)の約3.8倍の人数であり、仮にこれら全ての申請者が失業者に転じたとすれば、失業率は5.1%から24.5%に跳ね上がる。こうした失業リスクを回避するために時短勤務手当は存在していると言える。

 独連邦雇用庁の推計では、リーマン・ショック時には5万社、110万人が時短勤務手当を申請し、この制度により30万~40万人の雇用が維持された。また、2009年における時短勤務手当給付に伴う総コストは約46億ユーロ(約5500億円)とされる。仮に今回の新型コロナにおける時短勤務手当の申請企業数47万件を、連邦雇用庁が推計したリーマン・ショック時の申請企業数5万件と比較して、時短勤務手当給付に必要な追加費用を算出すると約430億ユーロ(約5兆1000億円)となる。

 企業支援による失業増加の回避は、現状への対応としてだけでなく、その後の景気回復を考える上でも重要だ。ドイツでは、2008年9月のリーマン・ショック以降、2010~12年の欧州債務危機の時期にかけて失業率の上昇は抑えられ、むしろ緩やかながら低下した(図表3)。

図表3:ドイツとユーロ圏の失業率
図表3:ドイツとユーロ圏の失業率
(資料)Eurostatより、みずほ総合研究所作成
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 上記の時短勤務手当だけでなく、労働時間貯蓄制度と呼ばれる好況期に残業時間をためておき、不況期には有給休暇として使うことができる制度もあり、ドイツ企業は失業増加を回避しながら労働時間で労働供給を柔軟に調整してきた。景気後退期でもレイオフ(解雇)を回避できた結果、ドイツ企業はリーマン・ショック後の経済のスタートダッシュに成功した。

 今回の「コロナ・ショック」に際しては、欧州連合(EU)レベルでもこのドイツの時短勤務手当を手本とした時短勤務への補償策が作られた。「失業リスク緩和のための緊急支援(SURE)」と呼ばれるこのプログラムは、メンバー国の時短勤務手当に対し、EUが最大で1000億ユーロ支援することを可能にする仕組みである。同プログラムの発表にあたり、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は、SUREの目的を「人々を職につなぎ留め、事業を継続させるため」と述べている。SUREに必要な資金は、加盟国がGDP規模に基づいて行った250億ユーロ(約3兆円)の払込資本に基づいて、金融市場より調達される。

 コロナ・ショックの大きさを考えると、今後、ユーロ圏でも失業者数の増加は避けられない。しかし、その増加を少しでも食い止めることは、感染終息後の反転攻勢の勢いを強める上で重要だ。EUは、リーマン・ショック以降のドイツの経験と政策を欧州全体に広げることで、失業増がもたらす悪影響の緩和に全力を注ぎ、反転攻勢の日に備えていると言える。

 幸いなことに、4月に入り、イタリアやスペインなど主要国における新型コロナウイルスの新規感染者数は増加ペースが鈍り始めている。感染拡大が終息したとき、欧州が反転攻勢に出ることができるかは、欧州全体に広げた雇用維持の“ドイツモデル”の実効性にかかっている。

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