全盛期の400店舗から27店舗に縮小し、業績の悪化に苦しんだドムドムハンバーガー。2018年に藤﨑忍氏がドムドムフードサービス社長に就任し、再建に力を入れてきた。21年3月期には、ついに最終黒字化を達成。前期も業績好調で、2期連続の黒字だったもようだ。前編「ドムドムハンバーガーを救った “こだわらない心」では藤﨑氏のキャリアと社長就任時のエピソードを中心に紹介した。後編は大手ハンバーガーチェーンがまねできない、ニッチな戦略に迫る。
18年8月にドムドムフードサービスの社長に就任した藤﨑忍氏は、当初、「会議でのスタッフたちの意見の少なさに驚いた。経営会議でも数字を羅列するだけで議論がない。これで大丈夫かな?と思った」と振り返る。
就任以来、メニュー開発やスタッフのモチベーションアップなどに注力してきた。21年3月期に黒字化を達成。経営母体が変わっているので詳細な過去は不明だが、黒字化は「おそらく数十年ぶり」(藤﨑氏)という。この成果の裏側にはどんな戦略があったのだろうか。

ECサイトを開設、グッズが売れた
ドムドムフードサービスの特徴の一つは、ハンバーガー以外にマスクやぬいぐるみ、Tシャツ、バッグなど、自社ブランドのさまざまな商品を販売していることだ。きっかけは、コロナ禍にマスクを作ったことだという。
20年3月、それまでエリアマネージャーと社長を兼務していた藤﨑氏が今後の方針を明確にし、社長業に専念すると決めた。その矢先、世の中は新型コロナウイルス禍に突入した。
「社長就任から1年半で分かったのは、創業から50年間のドムドムハンバーガーを守ってくださったのはドムドムを愛してくれたお客様とスタッフだということです。このブランドを次の50年まで育むのが私の役目。そのためには企業本位の営業施策ではなく、お客様とスタッフの人生に寄り添い、『共感共存』するブランドを構築すると決心しました」
世の中は空前の「マスク欠品」騒ぎの最中だった。未知のウイルスからスタッフを守らなければならない、と考えた藤﨑氏は、スタッフのためにドムドムのキャラクター「どむぞうくん」の織りネーム(タグ)を付けた洗える布マスクを作った。スタッフに配った後の余剰分を、少しでも世の中の人のためになれば、とレジ横で販売。
この取り組みは、ちょっとした社会貢献という位置づけだったために宣伝もしていなかったが、顧客の一人がそれをTwitterにアップ。大きな反響を呼んだ。
「翌日には店頭に長蛇の列ができました。『密』をつくり出してしまって本末転倒です。これではむしろお客様に迷惑をかけてしまうと思い、すぐに販売を中止しました。そうすると、販売してください、という声がメールや電話でたくさん届き、それならEC(電子商取引)サイトを立ち上げて販売しようということになったんです」
しかし、ハンバーガー屋であるドムドムフードサービスには物販事業部もなければEC事業部もない。営業担当スタッフと藤﨑氏の2人でなんとかサイトをオープン。マスクをECサイトで売り出すと、販売開始から1分で完売した。
「購入できなかったお客様からクレームの嵐です。カートに入れたのに、決済する前になくなった、どうなっているんだ、と。ECのノウハウも何もなかったので、あの時はすごく悩みました」と藤﨑氏は振り返る。
波乱の幕開けだったが、このECサイトが、21年には全体の売り上げの10%を占め立派なビジネスとなった。マスクのブレイクが収まった後も、ECの売り上げは5~6%を占める。「あくまでも、我々の主軸は店舗経営」と話す藤﨑氏だが、EC事業も重要な顧客接点となっていることは間違いない。
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