人口減少に歯止めがかからない日本は、もはや国内で人手を賄えない。優秀な人材の宝庫として注目を集め始めているのが、人口14億人のインドだ。2023年には世界一の「人口大国」になる。その活力が日本企業をよみがえらせる。
■連載のラインアップ
・インドの人材を採れ 14億人の活力、介護施設や旅館も動く(今回)
・「100万人だって送り出せる」 インドの人材、一気通貫で橋渡し
・楽天にはインド人が数千人 ITエンジニア争奪戦でGAFAに勝てるか
「同僚も利用者も、日本人はみんな優しい」
2022年春、社会福祉法人の致遠会(長崎市)が運営する特別養護老人ホーム「サンハイツ」が2人のインド人技能実習生を受け入れた。その一人、フェサオ・ヴェスフルさんはインドの大学院で経営学を学んだ。サンハイツの野濱玲子施設長は「思慮深いところや気遣いなどが日本人に似ている。できる限り、長く働き続けてほしい」と話す。
ところ変わって、インドの首都ニューデリー。「この言葉は?」「まだ覚えていません」。住宅街にあるビルを2月下旬に訪れると、「技能実習」や「特定技能」といった在留資格で日本での就労を希望する20代を中心とした人々が日本語を学んでいた。
ここは人材教育事業などを手掛けるARMS(愛知県刈谷市)のインド法人H&Aインディア。来日を望むインド人を集め、日本語などを指導する。これまでに技能実習生を中心に100人以上を日本に送ったほか、すでに就労先が決まっている人材を100人以上も抱える。柴田長利営業部長は「今年は250人ほどを日本に送り出したい」と話す。

厚生労働省によると22年10月末時点で、日本で働く外国人労働者は約182万人と過去最高に達している。その4分の1を占めるのが技能実習や特定技能で来日した人材だ。活躍するのは日本で人手不足が深刻な業種が多く、介護はその典型だ。団塊の世代が75歳以上となる「2025年問題」を抱える介護業界では、25年度に約32万人、40年度には約69万人の職員が不足するとの試算もある。
こうした労働力の需給ギャップを埋める存在になり得るのがインド出身の人材だ。国連の推計によれば、23年にインドの人口は中国を上回って世界一に躍り出る。平均年齢は20代後半とされ、少なくとも40年代までは15~64歳の生産年齢人口の増加が著しい「人口ボーナス期」が続くとみられている。
「今は国内で人材を賄える。でも10年後20年後を考えれば今から外国人の受け入れ体制を整えないといけない」。介護施設を運営するつるかめ(山形県天童市)の伊藤順哉社長はインドからの積極採用を検討している。
北海道・登別温泉の老舗旅館、第一滝本館(北海道登別市)では23年夏にインド出身の技能実習生を1人受け入れる予定だ。新型コロナウイルス禍で苦しんだ観光業界。「繁忙期を支えてきたパート、アルバイト、派遣社員などが業界から離れた」(第一滝本館の南智子社長)。足元では東アジアを中心としたインバウンド(訪日外国人)需要が急回復しており、深刻な人手不足に陥っている。
北海道は全国平均を上回る速さで高齢化が進み「日本人の採用は難しい」(南氏)。第一滝本館は海外からの人材採用に積極的で、すでに正社員の15%を在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」などで来日した外国人が占める。南氏は「日本語は必ずしも流ちょうでないかもしれないが、笑顔や親切さ、気の利かせ方などホスピタリティー力は日本人を上回ることもある」と話す。
Powered by リゾーム?