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 米調査会社センサータワーの調査によると、米アップルのApp Storeの非ゲーム部門で2018年にダウンロード数1位に輝いたのは動画アプリ「TikTok」だった。同アプリは日本でもJC・JK流行語大賞2018で1位になるなど、若い世代を中心に人気を博している。

 長い間、中国のアプリやソフトは外国のヒット商品の模倣や後追いが多かった。しかし、TikTokは中国発で他国に広がるという、これまでとは全く逆の経路をたどることになり、ある種のパラダイムシフトを感じさせることになった。

 TikTokはネット動画の中でも「ショート動画」と呼ばれるジャンルに属する。中国でネット動画はテレビ局や大手ネット企業などが仕掛ける企業発の動画=「PGC(Professionally Generated Contents)」と、日本でいうユーチューバーのようなユーザー投稿動画=「UGC(User Generated Contents)」に分けて語られることが多く、ショート動画は後者の代表格といえる。

 ここではTikTokが中国国内でどのような文脈から生まれ、なぜ世界的なアプリになったのかを紹介した。なお、正確にいうとTikTokは中国外での名称で、中国国内では「抖音(ドウイン)」と呼ばれ、形式上は別のアプリということになっている。本稿では特に注釈がない限り便宜的にすべてTikTokと呼称する。

毎年下がる通信料と、4Gの普及完了が動画の普及を促した

 中国発の動画アプリが世界に広がった背景に、まずネット環境の進化が挙げられる。

 既にインターネット大国と化した中国では、都市部を中心にそのインフラであるネットワーク環境の整備が日増しに進んでいる。スマホ人口は既に8億人を超え、4Gの人口カバー率も98%に達しているといわれている。また毎年3月にその年の最も重要な政策方針と総括を行う「全人代政府活動報告」において、毎年のように通信料の引き下げが取り上げられる。無料Wi-Fiも統計などはないものの、都市部ではどこにでも設置されている。

 また、インターネット接続が可能なスマートテレビやOTTといわれる設備も普及が急ピッチで進んでおり、「映像を見る=テレビ局の番組を家のテレビで見る」という構図は既に崩れつつある。中国で地下鉄に乗れば、老若男女問わずスマホで動画を見る光景が目に入るはずだ。

 動画サービスは、長いとはいえない中国のインターネットの歴史の中で、比較的早い時期から存在してきた。現在大手3大インターネットTVの一角を占める「優酷(ヨウクー)」と、後に同社と合併することになる「土豆(トゥドゥ)」は、実はアメリカでYouTubeが創業されたのと同じ2005年にサービスを開始している。

 最初にはやったのは、前節でPGCと述べた、おおざっぱにいえばHuluやNetflix型の企業やテレビ局が発信するコンテンツだ。前述の優酷のほか、「愛奇芸(アイチーイー)」や「テンセントビデオ」などがネット企業の王者であるBAT、すなわち百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントの投資を受け、その資金力で映画やドラマなどを買い付けて放送することで、消費者に「映像コンテンツを(テレビではなく)PCやスマホで見る」という習慣を根付かせた。そこから各社ともに独自コンテンツの開発を進めた結果、現在ではその年を代表するヒット番組と言えるものは、ほぼこのインターネットTVから出てきていると言っても過言ではない。