2016年1月11日、愛知県内のスーパー「Aマートアブヤス神守店」で冷凍食品コーナーを眺めていた女性の視線が、見慣れたパッケージの商品を捉えた。

 「あれ。これ、なんで売られてるんだろう」。

 油で揚げて調理する前の牛肉の冷凍カツが5枚、透明の袋に詰められていて、オレンジ色の文字で「ビーフカツ」と印字されている。何の変哲もない商品だが、女性には見覚えがあった。女性は「CoCo壱番屋」フランチャイズ店でパートタイマーとして働いていたが、そのパッケージは、本部から同店に配送され、店内で調理して顧客に提供する社内流通の製品にそっくりだった。もしそうだとしたら、本来、消費者向けに販売されるものではない。スーパーの店頭に並んでいるのはおかしい。

 女性はすぐに店長に連絡。この情報は、同店長を経由し、あらかじめ決められたルートですぐに壱番屋の本部にもたらされた。同社が店頭で販売された現物を入手して調べたところ、同社工場で製造されたものの、異物混入の可能性があり廃棄されたものと判明。廃棄を依頼したダイコー(愛知県稲沢市)に確認し、不正に転売していたことが判明した。同社は事態が明らかになってすぐ、1月13日にこの事実を公表した。

 さらに調査を継続し、ほかにも不正転売をされている製品があった事実を把握して1月15日に公表。1月19日には、「製品そのままを廃棄せず、包材から取り出して堆肥の原料にまぜる」「やむを得ず製品の形状のまま廃棄する場合は、社員が依頼業者の廃棄作業に立ち会う」などの徹底した再発防止策をまとめて、これも公表した。廃棄予定の製品が不正転売されるというブランドを毀損しかねない事故だったが、一連の迅速なリスク対応の結果、顧客や株主などのステークホルダーからむしろ称賛と支持が集まった――。


 あなたはこれまで、職場で「これ絶対ヤバいよな」と思っているけど伝えるのをやめた経験はありますか。

 「いつか炎上しそうではらはらする」「もしトップが失言したらどのようにフォローしたらいいだろう」。社員がこのような「不安感」を抱いているかどうか、払しょくできるかどうかは組織の生産性を大きく左右します。本稿では、所属する組織に不安因子はあるけれどどう解決したらいいか分からないなど、もやもやを感じている方に向けて、こんな時代だからこそ必要な新しいコミュニケーションの手法「エンタープライズ・リスクコミュニケーション(ERC)」の考え方をご紹介したいと思います。

 冒頭に掲げた壱番屋のケースはERCがうまく機能した好例です。

続きを読む 2/4 「予防」と「対処」の両面が必要

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