動画で力を入れてきたのは授業の講師陣。有名予備校で「カリスマ」と呼ばれた人も多い。例えば、英語を教える関正生氏は東進ハイスクールなどで教えた経験があり、多くの著書も持つ業界で一目置かれた存在だ。

 動画ではこうした講師が、単元に沿って独自のノウハウで授業を展開する。基礎を学べる講座から、東京大学や京都大学など難関大の志望者に向けた特別講座まで、複数のレベルのコンテンツをそろえている。

 ただ、一度収録すれば、いつどこで誰が見るかわからないのがスタディサプリの映像授業。制作には難しさもある。「時事ネタや社名などの固有名詞を使った例え話などを授業中には出しにくい」と話すのは社会科系の授業を担当する講師、伊藤賀一氏。どうしてもリアルの授業より、質が下がってしまう場合が多いという。

自社制作した4万本もの授業動画がサービスの強みとなっている
自社制作した4万本もの授業動画がサービスの強みとなっている

 「それでも普通の予備校講師の生の授業よりも面白い映像授業ができる講師陣が集まっている」と話す伊藤氏いわく、講師陣が意識しているのは「何かで突出すること」。授業の質が高いことは前提として、授業スタイルを特徴的にする講師もいれば、そもそも映像授業の方が得意な講師もいる。

 伊藤氏の場合は「外の世界でも圧倒的に目立つことを意識している」。著書を多く出版するなどして「自分自身の存在のプレミアム感を高めている」。今はYouTubeなどの動画サイトで無料の授業動画などが多く投稿されている。「お金を払ってでも見たいと思われるためには、そういう意識も必要」(伊藤氏)。これは伊藤氏の場合だが、要は講師陣が高め合って質を担保しているということだ。

 授業の質については、当初から評判は悪くなかった。ただ会員数がついてこない。失敗の一因は「値付けにあった」と、リクルートマーケティングの笹部和幸部長は話す。

サブスク型への切り替え

 事業を始めたときは、受験勉強用の動画を科目ごとにまとめて、1科目当たり5000円で提供する買い切りモデルだった。予備校の授業に比べれば確かに安い。ただ、高校生やその親からすれば、ネット上のサービスにそこまで払う価値はないという感覚があった。

 どうすべきか悩む中で、転機となったのがサブスクリプション型の動画配信サービスの台頭だった。11年には米国から「Hulu」が上陸。12年には月額料金を980円に設定し、市民権を得始めていた。そこで13年3月からは全動画を月額980円で見放題とする形に料金体系を変えた。すると利用が少しずつ増える手応えが出てきた。

 それでも利用者の反応は物足りないものだった。取り組んだのは、動画の時間を細切れにすることだ。

 サービス開始当初は「オンライン予備校」と称し、対面の授業をそのままデジタルに置き換えようと考えていた。このため動画の長さは50分程度になっていた。

 だが、これは間違いだった。「授業」という業界のモノサシから離れて、「スマホで視聴されている動画」という視点で世の中を見渡すと、再生時間はもっと短いものが多い。そこでサービス開始から8年の間に視聴時間を短くし、現在では10分程度にまで縮めている。

コンテンツ「10分でも長い」

 山口氏は「10分でも長い」と話す。高校生は短い動画ですら、1.5倍速などで視聴する。デジタルネーティブの生徒たちにとって、長い動画は苦になりかねない一方、短ければ隙間時間に学習しやすい。現在、5分程度にまで縮めていく方向で開発を進めている。

 もう一つ、コンテンツ面での問題は、対面の授業ではないためどこで生徒が詰まってしまうか分からないことにあった。問題を解決するため、リクルートマーケティングは社内にデータ分析のチームを設けた。

 視聴の記録を詳細にとらえ、途中で見ることをやめてしまうケースが多い動画は差し替えたり、再編集したりする。場合によっては、同じ教科の別の講師に担当を変える。スタディサプリが目指すのは、動画を磨いて5~10年後も通用させることだという。

 時代の変化に合わせ、柔軟にサービスの針路を変え続けたスタディサプリ。リクルート持ち前の営業力で学校現場にも徐々に浸透していった。

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