米電気自動車(EV)メーカー、テスラのマスク最高経営責任者(CEO)が今年2月、暗号資産(仮想通貨)ビットコイン保有を拡大したと表明すると早速、多くの評論家が、企業によるビットコイン投資ラッシュが起きると予言して見せた。

 しかし、企業の財務担当幹部や会計専門家によれば、すぐさまビットコインに殺到することにはなりそうもない。こうした財務や会計の責任者は、価格が不安定で予測不能なビットコインが、バランスシートや自社の評判を傷つけるのを嫌うからだ。

 英企業財務協会(ACT)に助言するPwCの国際税制・財務担当パートナー、グラハム・ロビンソン氏は「自分が企業財務の試験を受けた時、最優先の目的は、バランスシートの安全と流動性を確保することだと教わったものだ。ビットコインには、その面で根本的な問題がつきまとう」と話す。同氏は「安全と流動性こそが財務担当者の目的であるなら、これらの目的が損なわれる場合、そうした担当者は立場が難しくなりかねない」と指摘した。

 マスク氏がビットコイン15億ドル分を購入したと明かしたことに便乗するように、ビジネスソフトウエア企業・マイクロストラテジーも、ビットコインの追加投資を発表した。また、ツイッターのドーシーCEOが率いる決済企業・スクエアは、一部の手元現金をビットコインに入れ替えている。

 ビットコインは、インフレやドル安に対してだけでなく、高利回り資産を見つけ出すのが難しい超低金利に対するヘッジ手段になるというのが、支持派の主張だ。

 こうした動きをきっかけに、確かに企業取締役会でのビットコインへの言及は増えてはいる。だが、ビットコインにはボラティリティーから会計処理および保管まで、さまざまな「頭痛の種」があるため、バランスシート上でビットコインを大規模保有する動きが短期的に相次ぐとは考えにくい。これが財務担当幹部や取締役、会計専門家など十数人をロイターが取材して得た結論だ。

 米半導体大手・ブロードコムの監査委員を務める起業家で投資家のラウル・フェルナンデス氏は「企業経営陣の議論に影響を及ぼすには、ごく少数の現状打破的な企業だけでなく、もっと多くの企業がビットコイン投資に向かう必要があるだろう。より規模が大きいグローバル企業に至っては、今のところビットコイン投資が話題に上るのさえ、目にすることはできない」と述べた。

窮屈な会計上の縛り

 問題の1つは、会計実務の分野では他の多くの業界と同じく、今も仮想通貨の性質を詳しく分析している段階にとどまっていることにある。

 米国財務会計基準審議会(FASB)は、仮想通貨だけを対象とした処理の指針をまだ用意していない。ただ、企業は知的財産やのれん、ブランド認識などに通常用いられる「無形資産」に関する既存のFASBの指針をビットコインに適用している。

 これに基づくと、投資会社ないしブローカーディーラー以外の企業は、ビットコインが値上がりしても評価益は計上できない。一方で、値下がりした場合は、減損処理をしなければならない。

 さらにいったん評価額を引き下げると、その後値上がりしても売却するまでは評価額を修正できない。対照的に従来型の通貨を保有しているのであれば、企業は定期的に時価評価額を財務諸表に反映させられる。

 FASBは、急いでビットコインの扱いを見直す計画はない。事情に詳しい関係者の話によると、この問題で影響を受ける加盟企業が、ほとんど見当たらないことが理由だ。

 ただ、元FASB会長のロバート・ハーツ氏は「現状が最適な会計処理だとは思わない。より多くの主流な事業会社がビットコインを保有するようになれば、FASBも処理方法を見直すかもしれない」と話した。

 米国外でも、仮想通貨は無形資産として扱われるのが一般的だ。もっともFASBの指針と逆に、いったん下げた評価額は例えば数年のうちに引き上げることができたりする。企業がビットコインの時価評価を適時計上できるケースもある。

続きを読む 2/2 財務担当者の頭痛の種に

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