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 新型コロナウイルスの流行によって、香港では公立病院で働く人々の労働組合の動きが活発化した。この労働組合は香港の一連の抗議活動で生まれたもので、SNS「Telegram(テレグラム)」での議論を通して生まれたものだ。これまで過激な抗議活動を展開してきた「勇武派」よりもより建設的な姿勢を示している。こうした新興労働組合は今後の幅広い若者の市民活動の安定かつ合法的な基盤になる可能性がある。3つの労働組合へのインタビューを行い、その現状を明らかにする。

テレグラムを通じて生まれた労働組合

 今回筆者がインタビューを行ったのは3つの労働組合だ。1つは病院管理局(医管局)が運営する公立病院の医療従事者などの労働組合「医管局員工陣線」(HA Employees Alliance)である。彼らは中国本土との出入境管理施設の完全閉鎖などを求めて2月上旬に緊急医療も含めたストライキを行った(参考記事)。

 もう1つは香港で鉄道運営(地下鉄・高速鉄道など)を行っているMTR(香港鉄路)の新しい労働組合「港鉄新動力」(Railway Power)である。最後の1つは「航空同業陣線」(Hong Kong Aviation Staff Alliance)で会社・機関を問わず航空業界・空港で働いているなら誰でも参加できる労働組合である(なお香港ではこのような職種別労働組合は珍しくない)。政府機関である香港空港管理局の職員から組合に参加した人もいるという。

航空同業陣線のメンバー(撮影:Kaoru Ng)

 香港では香港居民が7人集まれば労働組合を誰でも立ち上げることができるが、必ず政府に登録をしなければならない。どういう職種・企業の人がその労働組合に参加できるようにするかは、その労働組合の自由である。香港では労働組合は「職工会」や「工会」(Trade Union)と呼ばれる。

 この3つの労働組合が対象とする企業・業種は大きく異なるが、1つ共通点がある。それは、これらすべての労働組合が抗議活動を行う中でできたテレグラムグループ上の議論を通じて設立されたことだ。テレグラムは抗議活動を通して香港で広がったSNSであり、通信の秘匿性の高さが好まれて抗議運動に関わる様々な活動によく使われ、活動の方向性についての議論もテレグラムのグループでよくなされた。

 例えば設立メンバーの1人によれば「医管局員工陣線」はデモ現場で負傷者の応急処置をしていた公立病院関係者のテレグラムグループを通じて成立したという。公立病院で働く多くの看護師は警察と抗議者が激しく衝突するような抗議活動の現場でファーストエイド(FA:応急処置)を行っており、その中には警察に逮捕された人もいる。公立病院関係者が集まるテレグラムグループでは様々な議論が交わされ、抗議活動の1つの手段として労働組合の設立を2019年10月下旬ごろから進め、正式には12月4日に発足した。ちなみに副代表の羅卓堯は香港専上学生連会の常務委員会副主席として雨傘運動に大きく関わった1人だった。

 同様に「港鉄新動力」もテレグラムグループからスタートした。抗議活動へのMTRの方針に違和感を覚えた人々がテレグラムで集まった。そしてそこで話し合い、労働組合を結成することにしたそうだ。

 「MTR Secretsというページでこのテレグラムのことを知った」と労働組合の設立人の1人は言う。彼はMTRでは香港と大陸を結ぶ高速鉄道の維持管理の仕事をしている。MTR secretsとはMTRの社員が匿名で会社の決定についての批評を投稿するFacebookページである。

 MTR Secretsやテレグラムには抗議活動に対するMTRの決定を批判する投稿が多くあったという。例えば19年8月31日に太子駅で警察が抗議者に対して激しい暴行をしたとされる「831事件」について、MTR側は駅の防犯カメラを公開することを拒否している。このようなMTRの姿勢に批判的な社員がテレグラムに集まり、そこでの話し合いの結果、労働組合が結成されることになったのだ。

 「航空同業陣線」も航空業界の人々が集まるテレグラムグループを通して設立された。19年8月、親中派(左派)といわれる香港工会連合会(工連会)所属の7つの民航系労働組合が香港空港での抗議活動を非難する声明を出した。そのことへの反発もあり、民主派の労働者を代表した労働組合設立を望む声が高まった。その後テレグラムグループで後に労働組合の幹部となる人が募集され、従来なかった航空業界全体を代表する民主派労働組合として設立された。