トヨタ自動車が半導体という基幹部品の調達体制を見直したのは今から10年前、東日本大震災の影響で生産調整に追い込まれたのがきっかけだった。発注してから納品までのリードタイムが長い半導体は、いざというときに備えて十分な在庫を確保しておく必要があると認識した。長年にわたり社内に蓄積してきた半導体への知見と相まって、トヨタは生産が止まりかねない「有事」への抵抗力を身に着けた。

 ロイターは、事情に詳しい複数の関係者に取材。足元で世界的な半導体不足が広がり、自動車各社が減産する中、在庫を極力持たないジャスト・イン・タイム方式の先駆者として知られるトヨタの生産に、大きな支障が出ていない背景が浮かび上がってきた。

「対応できているのはトヨタだけ」

 車載情報システムや高級オーディオを手掛けるハーマン・インターナショナルは、昨年11月ごろから製品に使う中央演算処理装置(CPU)やパワー半導体の不足を感じるようになった。しかし、トヨタ向けに納める製品に必要な半導体については、4カ月分以上の在庫を調達済みだったと、ハーマンとトヨタの取引に詳しい関係者は話す。トヨタとの間で結んでいる契約のためだった。

 半導体は昨年から今年にかけ、世界的に需要が一気に高まった。高速通信規格5Gの整備が本格化し始めたところに、新型コロナウイルス禍でリモート勤務が広がり、パソコンなどデジタル機器の出荷が伸長した。

 一方、自動車はコロナで販売に急ブレーキがかかり、車載用半導体もいったん生産を落とした。夏ごろから需要が急速に回復したものの、自動車向けの半導体は生産が追いつかない状態が今も続いている。

 関係者4人によると、特に不足しているのはマイコンと呼ばれるMCU(マイクロコントローラーユニット)で、ブレーキやアクセル、ステアリング、エンジンの点火と燃焼、タイヤの空気圧、雨天の感知など幅広い機能を制御する。

 フォルクス・ワーゲン(VW)やゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ホンダ、ステランティスなど、自動車各社は半導体の調達が間に合わず相次ぎ生産調整に追い込まれた。その中でトヨタは2月の決算発表で、半導体不足による生産への影響は大きくないと明らかにし、業界関係者や投資家を驚かせた。トヨタは2021年3月期の販売計画を31万台積み増し、営業利益の見通しを54%引き上げた。

 「我々が知る限り、今の半導体不足にうまく対応している自動車メーカーはトヨタだけだ」と、前出の関係者は言う。

震災で教科書を書き直し

 2011年3月11日に東北から関東の広い範囲を襲った強い地震とその後の津波は、トヨタのサプライチェーン(供給網)を寸断した。仕入れ先が被災し、およそ500品目に及ぶ部品や素材の調達を早急に手当てする必要に迫られた。被害を受けた取引相手には、ルネサスエレクトロニクスの車載用半導体工場も含まれていた。

 状況は1995年の阪神・淡路大震災のときより深刻で、生産が正常化するまでに国内は4カ月、海外は半年かかった。

 トヨタの代名詞とも言えるジャスト・イン・タイム生産方式にとって、大きな衝撃だった。必要なものを・必要なときに・必要な量だけ作り、在庫をなるべく持たない生産管理手法によって、トヨタは効率と品質の面で業界の盟主となった。

 東日本大震災後、トヨタはMCUをはじめとする半導体の調達手法を改めた。関係者4人によると、事業継続計画(BCP)の一環として、災害などが起きてもしばらく製品を納入できるだけの半導体在庫を持つよう、サプライヤーに求めた。期間は種類によって異なるものの、多くは3.5カ月から4カ月分。長いものでは6カ月分、中にはそれを超える場合もあるという。半導体を発注してから納品されるまでのリードタイムに当たる。

 こと半導体に関しては、トヨタは従来の生産管理手法の「教科書」を書き直した。世界的に半導体が不足し、サプライチェーンリスクが注目される今、トヨタはその成果を本格的に示しつつある。

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