ミャンマーでは国軍によるクーデター後、FacebookなどのSNSを利用した抗議活動が行われている。筆者は今年1月に出版した『「小さな主語」で語る香港デモ』(現代人文社)においてSNSが2019年の香港デモにおいてどのような機能を果たしたかを描いているが、国軍クーデター後に行われているミャンマーでの抗議活動と2019年の香港デモでのSNSの利用には多くの類似点があるように思えた。

 そこで、東京外国語大学でビルマ語とミャンマー研究を学び、現在は一橋大学大学院でミャンマーを含めたイノベーション研究に取り組む笹森奎穂氏に話を聞いた。笹森氏は、現地で同世代の大学生・大学院生を中心に多様な若年層と親交があり、現在のミャンマーのSNS事情に精通している。クーデター下の現在も、SNS上で展開される現地語での抗議活動やその変化を目の当たりにしてきた。

まず笹森さんとミャンマーの関わりを教えてください。

笹森奎穂(ささもり・けいほ)氏
2020年に東京外国語大学国際社会学部を卒業後、一橋大学大学院経営管理研究科に進学。国内外の高等教育政策や科学技術政策に関心を持ち、東京外大在学中には、ミャンマーで学生や大学教員、現地発スタートアップや国会議員に対して独自にインタビュー調査を行った経験がある。日本の大手メディア国際放送局での報道や翻訳、ミャンマー人向けの日本語教科書の制作にも携わる。 現在の専門は経営学・科学技術イノベーション政策で、2021年秋からは英国サセックス大学科学政策研究所(SPRU)に留学予定。 Twitter(@sailaomaung)、medium(@keiho-myanmar)などでも情報発信している。

笹森奎穂氏(以下、笹森氏):2014年に高校生として研修で現地を訪れたことがきっかけでミャンマー地域に関心を持ち、大学では4年間ミャンマーの地域研究を専攻しました。公用語であるビルマ語を習得しつつ、長期休暇を利用して現地を訪れ、スタートアップや大学を訪問することを続けてきました。卒業論文では、ミャンマーにおける大学教育の市場化について、国会議員や大学教員、学生などへのインタビューを元に考察しました。

 最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどで、さまざまな大学を訪問・調査してきた経験から、現地の大学生・若者に多くの友人がおり、継続的にコミュニケーションをとっています。また、留学生を中心にアメリカや日本のミャンマー人コミュニティーにもお世話になっています。

ミャンマーにおいて国民民主連盟(NLD)が政権を取ってからSNSがどう変化したと見ていますか。

笹森氏:SNSを中心としたインターネット利用は、この約10年で急速に社会に浸透したと言えます。11年から民政移管が行われ、13年に通信が自由化されると、外資企業の参入によって価格が大幅に下がったことからネットの普及が進みました。アウン・サン・スー・チー氏が率いるNLDは15年の選挙で勝利し、翌16年に政権を取りました。今では、道路が舗装されていないような地方部でも4G通信が利用できる状況といわれています。

NLDが政権を取ってから急速にネットが広まったということですが、ミャンマー国民はどのようなサービスを使っているのでしょうか。

笹森氏:これまでのインターネット利用は、Facebookに集中していました。私たちが普段使っているGoogle検索やTwitterのような用途も、Facebookがカバーしているような状況です。言論の自由がないといわれていた00年代以前に比べ、若者たちを中心に欧米圏の情報も入手できるようになっています。近年では、芸能人が数百万人のフォロワーを抱えていたり、芸能メディアや自己啓発系の動画投稿者が人気を集めたりするなど、盛り上がりを見せています。

かつてはネット後進国だったけれども、実際にネットが広がり始めてからはかなりの速度で、ネット先進国に追いつこうというレベルでコンテンツが充実していったのですね。

笹森氏:そうですね。私の友人は、フェミニズムを議論するFacebookページを立ち上げて注目を集め、外国メディアに取り上げられました。日本語を学べるコンテンツを提供して、インフルエンサーのようになっている人もいます。Facebookページを立ち上げ、外国の化粧品やファッションの輸入販売を始めた知人もいます。コロナ禍でのオンライン学習にFacebookグループが利用された例もありました。Facebookはあらゆる世代に利用されており、若者を中心にInstagramの利用者も一定数います。

彼らはどんなデバイスを使っているのでしょうか。

笹森氏:iPhoneユーザーは外国留学経験者など一握りで、多くの人は韓国のサムスンや、中国のvivo(ビボ)やOPPO(オッポ)など中国系のデバイスを利用しています。サムスンはミャンマーの芸能人を起用して高級感を打ち出すマーケティングを展開しています。中国メーカーは販売店に手厚い販売サポートを提供しており、最大都市ヤンゴンでは至る所に無数の看板が見られますね。

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